ゆきやまちほーのCO₂

 ゆきやまちほー。その名の通り、一面雪に覆われた真っ白の世界である。ジャパリパーク唯一の温泉をはじめ、見どころも数多い極寒のちほーだ。

 ある朝。静まり返った雪原に、1人の足音。

「はあぁ~、やっぱり寒いとこは落ち着くねぇ」

 白い気体に身を包んだ少女が、まっさらな雪を踏みしめて山を登っていく。コートに耳当て、暖かそうな格好ではあるが、顔色は決していいとはいえない。

「それにしても手が冷えるなぁ~。どうにかならないかな」

 積もった雪を気にすることなく、彼女は進んでいく。目的地は、もちろん。


「すいませ~ん……お邪魔しますよ~」

 ゆきやまちほーのユートピア、キツネの2人が管理している温泉。彼女の目的地はここだ。温かいお湯に浸かれるとあって、今やジャパリパーク屈指の人気観光地(?)になっていた。しかし今日はいつも以上に冷え込んでいるからか、お客さんは常連のカピバラしかいない。ギンギツネが奥から姿を現した。

「いらっしゃい。こんなに寒いのによく来たわね……。ゆっくりしていってね」

「あ、いえ! 今日はギンギツネさんたちとお話したいな、と思って」

「えっ!? 珍しいわね……まぁいいけど。キタキツネ、ちょっとこっち来なさい」

 呼びかけられてから1分ほどして、キタキツネが出てきた。目が乾いているのか、まばたきが普段の5倍くらい多い。

「……誰? 何でぼく呼ばれたの?」

「私たちとお話したいんですって。――それにしても、さっきよりなんだか寒くない?」

 キツネの2人すら寒がる中、お客さんの少女は寒そうなそぶりも見せない。

「そうですか? あ~……ひょっとしたら私のせい、かもです。

 え~と、私はドライアイス、っていいます。博士さんたちにきいたら、動物じゃないかも、って言われて……雪山に行ってみたら、っていうので来たんですけど」

「うーん、ちょっとわからないわね……。でも興味深いわ。もう少し教えて」

 いいですよ、とドライアイスは自身の身の上を語り始めた。


 私は昔のこととかあんまり覚えてないんですけど、こうなる前は仲間、っていうか、おんなじ種類のがたくさん周りにいた、っていうか。でもこのフレンズ? の姿になってからは独りだし……。

 自分でも最近わかってきたんですけど、私って、冷気を放ってるんですよ。あ~、もう少し簡単にいうとですね、周りを寒くできるんです。そのせいで、周りのフレンズ? のみんなと遊ぼうと思ってもムリなんですよね……みんな寒くなっちゃう――


「もうその辺でいいわ。キタキツネ、眠そうだし。それに、どうして博士たちがあなたをここに来させたのか、わかった気がするもの」

 ギンギツネの横では、キタキツネが大あくびをしている。この極寒の中なのに寝られるとは。寝たら死にそうなくらいの寒さである。

「ドライアイス、っていったかしら? あなた、ここの温泉手伝ってくれない?」

 どうして、と問うドライアイスに、ギンギツネは説明する。

「勘だけど、あなた、掃除とか上手そうなのよね。それにゆきやまならあなたの出してる寒さも気にならないわ。この子だって寝ちゃってるし」

「……わかりました! これからよろしくお願いします、ギンギツネさん!」ドライアイスが頭を深々と下げた。

「そんな固くならなくていいのに……じゃあ早速、玄関の周りでも掃除してもらえない?」

 はい、とドライアイスの元気の良い返事が響いた。


「――なんだかいつもより寒いよよよ……なんでだろうねねね……」




 サンドスターの奇跡は、無機物すらフレンズ化させてしまうのです?

 ドライアイスちゃんについては、三浦哲郎さんの「盆土産」に影響を受けております。

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