第二章 逃げた黒猫と転校生 6

 芝原直人は、真顔でそう答えた幼馴染の背中を見つめたまま、自身の机を抱え込んでいた体を起こし、頬杖を付く。

「面白いっちゃ面白いけど、でもなんでその例えがあえてのタカなんだよ」

「例えばの話だよ、例えば」

「ふうん」

 まぁいいけどさ、と口の端を歪め、「そういえば」と呟いて話題を変える。

「うちのクラス、転校生がくるらしいな。もう、始業式もすぎてんのに、珍しいよな」。

 彬は体を前に向けたまま視線だけを背後に投げて、「うん」と答える。

「女の子だよ。僕、春休みに一度来た時あったもん」

「まじでっ!」

 幼馴染のその言葉に、思わず体を跳ね上がらせる。瞬間的に突き刺さる、視線。

 中年の教師はその分厚い眼鏡の奥から長髪の生徒を射抜くと、「静かにしろ」とそう言った。

「はい……」

 高い背丈を精一杯小さくして、再度彬の背中を叩く。

「で、どんな子だった?」

 にやにやという笑いを浮かべる彼の言葉に、彬は鬱陶しそうに体を捩った。

「可愛い子だったよ。小柄で、細い子だった。僕が会った時はセーラー服だった」

「まじか! 髪形は!? 顔は!?」

「芝ちゃんは、女の子のことになるとほんとにマジで節操ないよね……」

 苦々しく吐かれた溜息と、諦めの言葉。

 はぁ、と男にしては華奢な部類に入る撫で肩を更に落とし、

「髪はそんなに長くない……でも、ショートカットっていうほど短くない……おかっぱ頭に近いかも」

 思い出すようにして顔をあげ、意味もなくシャーペンをくるくると宙で回転させる。あまりはっきりとしていない記憶を探る。

「あ、あれ。着物とか似合いそうな感じの子だった」

「や・ま・と・な・で・し・こ!」

 鼻息荒く興奮する幼馴染に嘆息する。

「名前! 名前はー?」

 机ごとずいずいと迫りくる長髪の幼馴染に(実際に迫っているらしく、彬と机の間の距離が随分ときつくなっている)「興奮しないで、落ち着いて」と諦めの混ざった汗を流す。

「確か名前は――」


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