老子 道経

道経1  道について   

まず、「道」という概念を規定しよう。

「なんだかよくわからんアレ」である。


……いろいろ雑なマエフリであるな。



ひとまず、ここを語るにあたっては、

「名」について考えねばなるまい。


この世に存在するものごと、物体。

これらを我々が認識するに当たりては、

既にして「そこにある」ものに対し、

観測者たる我々が認識できるよう、

識別コードを付与せねばならぬ。


そのコードこそが、「名」である。


例えば、我々が「文字」と呼ぶ代物は、

我々がそれを文字という「名」にて

認識したいがゆえに、そう呼んでいる。


一方で書道家が記す文字は、その筆跡が

何を意味しているのかを把握できねば、

「なんだかわからん、謎の何か」

となろう。


観測者視点からすると、

この時、その文字からは

文字と言う「名」が失われている。

線あるいは絵と言う「名」のほうが

ふさわしいやもしれぬ。


即ち「名」をつけるとは、

我々が認識、感知しうる世界の

内と外とを峻別する行いである、

と言えよう。



万物は、我々が認識しようがすまいが、

既にして、そこにある。


しかしながら我々は、

万物が存在していることを、

認識、感知の内側に呼び込めねば

把握できぬ。



いま我々は、我々の認識の外にある

「よくわからんアレ」について語ろう、

と言う蛮行&蛮行を目論んでいる。


ここでは、その謎のアレに

「道」と言う「名」を、

仮に与えようとしている……の、だが。


それであの謎のアレを把握できた、

などとは、ゆめ過信されぬよう望む。


「理解できるはずがない!」

モノである、と見なさねば、

その存在を認識することすら能わぬ。


「理解余裕!」などとおごれば、

ぱっと見の枝葉に翻弄され、

延々と時を空費しよう。


同じアレを語るにしても、

この点を見失えば、

まるで議論の内容が違ってくる。

即ち、誤った「名」を付与しかねぬ。



西洋に「無知の知」と提唱した者がいる。

これは実に示唆に満ちた提言である。

そう、我々はアレより生じている、

世界のありようを認識しきれぬのだ。


そこを謙虚に受け入れられねば、

この世界についての考察なんぞ、

始められるはずがない。



「我々は、世界について語るに当たり、

 我々では到底認識し得ぬ何かについて

 考察せざるを得ない」と思われよ。


言い換えよう。


真に玄奧なるものは、

我々が考える玄奥さ、

即ち、我々が「玄奥」と

「名」を与え得る境地より、

さらにもう一つ、奥にある。


そこを重にわきまえおくが、

この議論の、スタートである。




○道経1


道可道非常道

名可名非常名

 道の道とすべきは、

 常の道に非ず。

 名の名とすべきは、

 常の名に非ず。


無名天地之始

有名萬物之母

 名の無きたるは天地の始め、

 名の有りたるは万物の母。


常無欲以觀其妙

常有欲以觀其徼

 常に欲の無かるを以て其の妙なるを觀、

 常に欲の有せるを以て其の徼なるを觀る。


此兩者

同出而異名

 此の両者、

 出でたるを同じうせど

 名したるを異ならしむ。


同謂之玄

玄之又玄

衆妙之門

 同じきを之れ玄と謂い、

 玄なるの又た玄なるを

 衆妙の門とす。



○蜂屋邦夫釈 概要


ここで語る道は、道路や聖人としての道徳、を語るわけではない。道に対し、無欲で接すればその奥深い境地がわかるが、欲を抱いて接すれば表向きしかわからない。奥深いものも表向きのものも、共に道から生まれたものだが、それぞれ別の名がついている。奥深いものの、さらに奥底から、あらゆる物は生まれてくる。



○0516 おぼえがき


なんだか分からんアレを仮に「道」として定義しましょうね。けど、その名をつけたからと言って変に既存の「道」って言葉のイメージに引っ張られないでくださいね、この点については重々…(中略)…々々に注意してもらいますよ、と言った内容に思われた。


考えてもみれば、定義というおこないはえらく応用的である。古来の中国でも無自覚のうちには用いられているだろうが、もしかしたらそこまで踏み込んでの用法はないのかもしれない。あるのかもしれないけど。どうなんだろう。


この辺、テクニカルタームの実例みたいなもん引っ張れないと解決しなさそうだなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る