米問答


 二人の初老の男が、江戸の外れの道を歩いていた。

 この二人、身なりはそれなりに上等で穏やかな顔つきであることから、割と余裕のある境遇のようらしい。

 だが、片方の男がこの度、目の病気にかかってしまい、視力がほぼ失われてしまってしまったのだ。

 それで、片方の男が視力を失った男の肩を持ちながら、医者にかかりに行っている途中といった塩梅。

 ゆっくりと二人が歩いていると、肩を持っていた男が突然声をあげた。


「おやおや、なんてことだ。あんなところに、俵に包まれて子めが捨てられておるぞ」


 この男の言う通り、俵に包まれた赤ん坊が、道端に捨てられていた。しかし、それを聞いた目の悪い男、


「ほう? こんなところに米を捨てる人がいるなんて、なんと奇特な人もいるものじゃ。俵に入ってるのならさぞ重かろうが、二人ならなんとかなるじゃろう」


 と、米俵と勘違いしているようだ。

 片方の男は躍起になって、


「いや、違う違う。米じゃない。赤子めじゃ」


 と言うが、眼の悪い男は肩をすくめて、


「なんじゃ、米は米でも赤米(白米より小粒で味の悪い米)か。それでも、ただで手に入るのならよい。それ、赤米はどこじゃ、連れて行っておくれ」

「違うというておろうに。人じゃ。人の赤子めじゃ」


 いい加減にせえよと声を荒げる男に、眼の悪い男は嬉しそうな声で言った。


「おお。おお。赤米じゃから大したもんじゃなかろうと思うておったが、なんと四斗しと(約七十二リットル)もあるとは儲けものじゃ。二人で分けても二斗もあるぞい。そうなると、ワシたちじゃ荷が重い、それ人を呼んで来い」

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