黄金の鳥居


 とある長屋の一角。

 その長屋の一角は、今日に限って右に左の大騒動となっていた。

 それはなぜかというと、その長屋に住む与太郎という男の妻が朝から産気づいていたからである。

 しかも、ただのお産ではなく、ここら一帯に住む人々が経験したこともないような難産になってしまっていたのだ。


「ほれ! 踏ん張りな!!」


 部屋の中では、産婆が妊婦を力強く励ます声と、妊婦の悲痛な声が長い間響き渡っていた。

 さしもの百戦錬磨の産婆も、このままではいかんと手の空いている者に大声で怒鳴った。


「医者だ! 医者を連れてきな!」


 怒鳴られた女が、慌てて部屋から駆け出して医者のもとへと向かう。

 そんなドタバタ劇をずっと見守っていた夫の与太郎。俺にも何かできることはねえもんかと考えると、あることを思いつき、部屋から出ていき、すぐそばの井戸へと駆け寄った。

 すると与太郎、何を思い立ったかいきなりフンドシ一丁になって、井戸から冷水をくみ上げ己の身体にぶっかけた。

 何をしてるんだと周囲の人々が与太郎を止めようとするが、与太郎は周囲の手を振りきって、膝をついて天にむって手を合わせはじめた。


「神様!! どうか俺の嫁と子供をお助けくだせえ!! お助けくださったら、近場の神社に感謝の印として黄金の鳥居を奉納させていただきやす!! どうか、お助けくだせえ!!」


 それを聞いた与太郎の友が、与太郎に言う。


「えらくでっけえことを言ってやがるが、おめえ本当に黄金の鳥居なんか奉納できんのかよ?」


 すると、与太郎が友にむかって一喝した。


「んなもんできるわきゃねえだろう!! でも今の一瞬だけでもこの嘘が神様に通じたら助けてくれるかもしれねえじゃねえか!! おい、かかあ!! 俺がこうやって神様をだましてる間に子供を産んじまえ!! 神様には後でなんとか俺が適当に言い訳を考えておくから、なんとかならあ!!」

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