マムシの憂鬱
街道の草むらを、一匹のマムシが我が物顔で這いずっていた。
「ふふん。俺様の毒にかかりゃあ、どんな野郎が相手でもイチコロよ。人間はもちろんのこと、熊だろうが虎だろうがいくらでも相手になってやるぜ」
意気揚々と草むらの中を進んでいくと、目の前に別なマムシがとぐろを巻いているのが目に見えた。同じマムシのよしみ、声をかけるマムシ。
「よう、景気はどうでえ? 今日も人間のクソ野郎にでも噛みついてやったかい?」
「ああ……まあな……」
なんとも歯切れの悪い答え。こいつは何かあったかとマムシは、とぐろを巻いたマムシに言葉をかけた。
「どうしたよ。何かあったのかい?」
聞いてみるが、とぐろを巻いたマムシは押し黙ったままだった。こうなると、意地でも聞いてみたくなるのが人情――いや蛇情だ。
「何かあったなら話してみろや。気が楽になるかもしれねえぜ」
すると、とぐろを巻いたマムシが力のない声で聞いてきた。
「なあ……俺たちの毒って、どんな奴でもイチコロだよなぁ……」
「はぁ? 何言ってやがんだ、当然だろう。だからこそ、色んな奴らが俺たちを恐れるんだろうが」
「だよなぁ…………」
はぁ……と嘆息するとぐろを巻いたマムシ。イライラしてきたマムシは声を荒げながら言った。
「さっきから、なんだよてめえ。ウジウジしやがって、同じマムシの風上にもおけねえ野郎だ」
「そう言われても仕方ねえが、俺の立場になってみればお前も俺と同じような態度をとるだろうよ。なんてったって、俺はもうすぐ死んじまうんだ」
この言葉にマムシは驚くと同時に悪いことをしてしまった気持ちになった。そうだったのかと、慰めるような口調でマムシは言う。
「しっかりしろよ。ひょっとすると、助かる手立てがあるかもしれねえ。もうすぐ死ぬだなんて、いったいなんでそうなっちまったか俺に話してくれ」
とぐろを巻いたマムシは、達観したような諦観したような、ともかく神妙な口調で言い放った。
「実はよ……俺、さっき自分の舌を噛んじまったんだ……」
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