カモが悪夢を見る理由


 鳥のカモは江戸時代からも食べられておりまして、その中でも野菜の『せり』と一緒に煮て食うカモ鍋が一番だと言われてまして…………。




 ある晩のこと、とある水田にたくさんのカモが降りてきて、自らの羽根の中に首をつっこんですやすやと眠っていた。

 ただ、カモの中にも寝ずの番というものがあって、外敵が現れた時に眠っている仲間たちを叩き起こす役割のカモもいた。

 その寝ずの番のカモが辺りを警戒していると、カモの群れの中に、なにやらうなされているのか、クゥクワワワワッ! クワァ~~~~ッ! と鳴いているカモがいた。このままだと、うるさくて他のカモもたまらんだろうと、うなされているカモを寝ずの番のカモがくちばしでつっついて突き起こした。


「おい、大丈夫か?」

「うぅ……とんでもない悪夢を見た……」


 突っつかれたカモは、大きく身震いさせながらそう答えた。


「どんな悪夢を見たんだ?」

「それがさ、人間共にとっつかまってカモ鍋にされちまう夢だよ。ぐつぐつ煮立った鍋の中に放り込まれて、鳴いても叫んでも誰も助けてくれない。もう、これで終わりだと思ったら、お前からつつかれて起こされたってわけさ。いやぁ、助かった」


 羽根をばたつかせて喜ぶカモに、寝ずの番のカモが戒めるように言った。


「なるほど、たしかにそりゃあ悪夢に違いないが、それはそんなところで寝てるお前がわるいんだ」

「なに? 俺がわるいって?」

「そりゃあそうさ。お前、足元を見てみなよ」

「足元?」


 そう言われ、足元を見やるカモ。するとそこには、この水田で栽培されているせりがびっしりと繁茂していた。

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