橋の渡し賃
昔、橋を渡るにも渡し賃っていうのが必要な時代がありまして、これはそんな時代の小話でございます。
夜もだいぶ更けた頃、一人の女が髪をふりしだいて橋へと走ってきた。なんともただならぬ雰囲気をたずさえている。橋の番人の詰所――番小屋の男は女に何か恐ろしいものを感じた。
声をかけようかどうか迷っていると、女が橋の渡し賃置き場に一文を置いた。そして、駆け足で橋を渡ろうとするのを見て、番小屋の男は慌てて声をかけた。
「おいおい、あんた! ここの橋の渡し賃は二文だよ! そこの看板に書いてあるだろう! 悪いが、二文がないのならこの橋を渡ってもらうわけにゃあいかないよ!」
この番小屋の男の呼びかけに、女はキッ!! と振り返って男に言った。
「いいのよそれで!! あたしは橋の半分まで行ったところで飛び込むんだから、半値の一文で十分でしょう!!」
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