朝鮮人参の効力
昔から万能薬って言葉が唯一当てはまるものといえば、朝鮮人参。
その効き目は確かながら、その値段もまた一級品。
どのくらいの値段かっていうと、小指ほどの大きさの朝鮮人参があれば、とっつぁん、かっつぁん、小僧に小娘の四人家族が一か月余裕で暮らせるほどだといえば、察してくれるだろう。
さてさて、長屋の中で、そんな朝鮮人参の話をしている親方衆のところへ、一人の男がやってきた。
「親方ぁ! 親方ぁ! すっげえもんを見てきやしたよ!」
「はん? すっげえもんなんて、こちとら江戸っ子めったやたらなことじゃあ驚かねえぜ。大した事じゃなかったら、ただじゃおかねえからな」
いやいや、きっと親方も驚きなさるってぇ! と息巻きながら部屋の中へと入って座り込む。
「で? どんな話なんでぇ?」
「ちょっとお待ちになってぇ。この話をする前に、親方がたにお聞きしてえんですが、親方がたは朝鮮人参のことをご存じですかい?」
「はっ! ご存じも何も、ちょうど今おれたちゃぁ朝鮮人参の話をしてたとこだ!」
「そいつぁ、なんともちょうどいい話でさぁ! 親方がた、朝鮮人参ってぇのはとんでもねえ効力をもってるんですねぇ!」
「そりゃあそうだろう。じゃなきゃぁ、あんなにふざけた値段で取引されてるわきゃあねえわな」
「ですがねぇ、親方がた。朝鮮人参つっても、結局は薬なわけでしょう?」
「はぁ? そりゃあそうだろう」
何がいいてえんだ、こいつぁ? と首をかしげる親方衆。だが男は親方衆の答えを聞いて勢い得たりといった様相で話を続ける。
「しかしねぇ、親方がた。薬ってのは、飲んでこそじゃねえですかい。そこにきて朝鮮人参ってぇやつは、とんでもねえ効力をもってやがりやすよ!」
「だからふざけた値段なんだろうが。おい、おめえ結局のところ何がいいてえんだよ?」
親方衆の急かす声に、男はニヤリと不敵な笑みを浮かべて言った。
「いや、ね。なんでも、向かいの長屋の死にかけたご隠居さんがいやしたよね。そのご隠居さんが医者にかかったらしいんでさぁ。すると、医者がご隠居さんの容態を見てこう言ったらっしいですぜ。うぅむ。この病は三十日かかさず朝鮮人参を飲まなければなおらないって。すると、そいつを聞いたご隠居が跳ね起きてこう叫んだって話ですぜ。とんでもねえ話だ!! そんなことになっちまったら俺ぁ干からびてあの世行きだ!! んで、驚いた医者がもう一度診察すると、なんとぴったり病が治ってるってえいうじゃありやせんか。朝鮮人参ってぇやつは、本当にすげえ効力なんですねぇ!!」
男の話に親方衆は大笑い。
「そいつぁ、すげえ!! さすがは朝鮮人参、飲まずとも名前だけで病を治しちまいやがった!! 万能薬の二つ名、ここに極まれりってやつだな!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます