サボロー抹消計画

鯵の開きとGO

短編1

 『サボロー』、その存在は彼にとって、とても大きな悩みであった。サボローとは自分の中に棲まう、彼にとっての悪魔である。なぜサボローという名前なのか、単純に彼が勉強や課題をサボってしまう存在であるからだ。サボローはよく彼に誘惑してくる。それが彼にとって一番悩まされた事であった。勉強や運動といった努力を怠ろうとする邪魔な存在だった。彼自身、誘惑にのってしまう自分が悪いと思っていた。しかしサボローは彼が帰宅した時や休みの日といった気が緩んでる隙にすっと漬け込んできくる。そしていつものように誘惑にのってしまうのだ。最初に誘惑にのってしまうと、サボローの支配力は高まり、後になってはもう戻れない始末である。彼はそんなサボローを酷く憎んだ。彼の父や母、妹といった周りの家族は皆、秀才で幼い時から勉強ができていた。しかし彼はできなかった。彼はその主な原因はサボローにあるといつも思っていた。しかしサボローが現れるのは家の中だけで、外にいる時は全く現れなかった。なので学校などでは真面目に授業を受けていた。しかし彼が家に帰れば、必ずサボローは部屋にいる。家では宿題などを後回しにし、結局できない日々。なので三者面談では先生たちをよく困らせた。

 彼にサボローが最初に現れたのは、小学三年生の夏休み初日の事であった。夏休みの宿題が多く、早めに終わらそうか悩んでいた。そんな時にサボローが現れたのだ。そして誘惑を売ってきた、「後でいいじゃないか、今は遊んだ方が得だよ」と。それにまんまと買ってしまったのだ。それから7年後、彼は高一である。受験にことごとく失敗し、今は何とか底辺高校に通っている。サボローはそれまで彼にずっとついてきた。彼は誘惑にのまれやすい意志の弱さの反面、真面目さもあった。その性格がサボローを強力な者にさせてしまったと彼は考える。いつものようにサボローの誘惑に乗り、全く宿題や勉強も手付かず。そして彼はできなかった自分をとても後悔し学校へ行く毎日。結果、放課後の居残りはもちろん、テストの成績はいつも赤点ばかりであった。しかし家に帰ればそんな問題にも遭わずにすむ。親には怒られるが部屋に篭ればサボローの思うがままである。「いっそのこと家には帰らず、外でやればいいじゃないか」と思うが、彼曰く外でいる時はなぜか自信過剰になってしまい、絶対に家でも誘惑に負けずできると思い込んでしまうのだ。これもサボローの仕業だと彼は睨む。彼はサボローとうまく付き合おうといろんな手を下した。しかしどれも失敗に終わった。そして彼は

「サボローなんて消えてしまえばいいんだ」

と、怒りを露わにして考えついた。そして彼は『サボロー抹消計画』を立ち上げたのだ。この計画はその名の通りサボローを抹消するための計画であった。計画はいつも"外”で練っていた。”中”だともちろんサボローに計画が筒抜け、サボローに支配されたら計画なんぞ彼が考える事すら出来ないからだ。だから彼はいつも"外"で計画を練っていた。


 高一の夏休みが始まる前日、彼はこの日に『サボロー抹消計画』を実行した。夏の暑い日、彼が家に帰宅し部屋に入るとサボローがいつものようにいた。

「やあ、明日から夏休みが始まる事なんだ、スマホで動画でも観てゆっくり過ごそうじゃないか。」

彼にとって、いつものように上機嫌に誘惑してきた。

「頭も使わないから、楽だし、楽しいぞ。」

と付け加えてサボローが言った。彼にとって、お馴染みのいい種だ。

「ああいいとも、ゆっくり過ごそうじゃないか」

彼は上機嫌に返した。サボローには顔がない、しかし彼は、サボローのそぶりが少し戸惑いを感じてると分かった。いつもなら拒否反応を示すも、今日は全くその反応がないからだった。

彼の計画はこうだ。あえてサボローの誘惑に乗り続ける、つまり苦しくなるまでやり続けるのだ。そうすればサボローも行き場がなくなり、最終的には消滅せざる追えないのだ。この計画はかなりリスクがある、しかし流石に誘惑に乗り、怠けても寝る事はでき、ベットからも動ける。彼はそこをついたのだ。

ベットの上で動画を観続けている内に夜が明け昼が過ぎた。部屋の中は暑く、蝉の鳴声が止まらず聞こえた。彼は少しだるさを感じた。しかしその時サボローが

「おい、もう寝なくてもいいのか」

と言った。彼は明らかにサボローが焦り始めていると察した。この計画通りに進んでいる事に嬉しさを感じたが、彼はその気持ちを抑えて「うん。」と簡素な反応を示した。そして彼はそのまま動画を観続けた。


 二日後、部屋に引きこもり続け、食事は冷蔵庫の中から食べ物をかっさらい、ベットの上で食べる。シャワーも浴びず、ほぼベットの上で生活だった。体がだるく、トイレに行く時も足どりが重かった。しかし、どんどんサボローが苦しんで行く姿を想像すると、興奮して計画を断念する事など出来なかった。

そしてサボローは

「もうお前、一睡をしてないじゃないか、もう寝て明日にまたやろう。それかせめてベットから動いて何かやろう。」

上機嫌だったサボローの姿が全くない事を彼は感じた。そして彼は

「せっかくの夏休みなのだから、寝るなんて勿体無いじゃないか。もっと怠けようよ。」

彼は少し微笑みながら返した。

「おい、お前は誰だ。俺が知るお前じゃない。」

サボローが急に彼の存在を疑いだした。

「なにを言ってるんだい。俺は俺だよ。昔から付き合ってて俺が二重人格だったかい?」

「いやそうじゃない。」

サボローはそう言ってしばらく黙った。


四日後、彼の体は疲労困憊だった。長らくベットにいて、寝なかったため体が重く、鏡で顔を見ると少しひげ面で痩せていた。四日前から動画を観続けて、今や盆栽の手入れの仕方という、彼にとって全く興味がない動画を観ていた。

サボローが、

「もうやめてくれ、もうやめてくれよ。俺をこんなに苦しませないでくれよ。こんなのちっとも楽しくない。楽じゃない。」

と弱音を吐いた。

「嫌だね。どうしてここまできてやめなきゃいけないんだ。せっかく四日間も丸々君の好きな事をやってきたんだ。やめられないよ。」

彼はにんまり笑いながら言った。

「お前は鬼だ。お前は優しいやつだと思っていたが違った。あー恐ろしい鬼だ!」

サボローは恐怖を露わにした。彼はその時、あんなに大きかったサボローの存在が小さくっているのを見た。


六日後、ほぼ寝ず、動かず、頭を使わずの生活がまだ続いていた。彼の体は鉄のように重く、手を持ち上げるだけでも精一杯だった。しかし彼は眠気は感じず、上機嫌であった。しかも前よリもかなり。

サボローはビー玉のように、今もう手で握り潰せそうな弱々しい存在になった。

「なあ、もうやめてくれよ... 助けてくれよ... 俺たち長い付き合いじゃないか...

助けてくれよ... もう消えてしまいそうだよ... 。」

と、サボローが弱々しい言葉を放った。

彼はサボローの息の根が無くなっているの感じた途端、彼の興奮が一気に頂点に達し、重かった体の事も忘れ、彼はベットの上に立ち上がり。にこやかな表情が一気に豹変しほとばしい程の怒りと喜びに包まれた表情になった。

「ひっかかったな。お前を抹消しようと前から考えていたんだ。いやあ、まさか俺の策略にまんまと引っかかるなんてね、いや必然的に引っかかることだったか。」

続けて、

「俺はお前に七年間も苦しんだんだ。その日々が地獄のような日々だった。その傷みを存分に味わってくれたかい。お前が今にも消えそうで嬉しくて、嬉しくて仕方がないよ。」

彼は不気味に笑いを浮かべ言い放った。

サボローはそれに対し

「・・・。」

と、何も言わなかった。サボローにはもう言葉を発するという気力さえ無くなっていた。そしてサボローは、最後まで何も言わず、まるで空間に吸い込まれるかのように塵のように小さくなり消えてしまった。それを彼が見た途端、彼は大声で

「やった!勝ったんだ。俺は悪魔に勝ったぞ!。」

と、心の底から喜び、叫んだ。その瞬間、彼は床に倒れ込んだ。


八日後、彼が目を覚ますと、そこは病院の病室でベットで寝ていた。彼の両脇には彼の両親がいた。右には母が座り込んでいて、左には父が突っ立ていた。母は彼の膝下で泣きながら「もう心配したのだから。」と言い、父は「もう一生こんな事はするなよと。」と流石に、ぶたれはしなかったが少し怒っていた。そして彼は

「もう絶対にしません。」

と、自身一杯に宣言した。


十四日後、彼が退院し家に帰宅する日が来た。彼が家の戸を開け、自分の部屋の扉を開けると、そこにはサボローの姿はなかった。そして、しばらく彼の部屋は静寂に包まれていた。彼は再び喜んだ。そして真っ先に勉強し始めた。彼は邪魔するものがいない開放感と自由さを深く味わいながら勉強した。彼の手は止まる事なく、黙々と勉強していた。それは何十時間も続いた。

 しかしなぜだろう、彼を傍から見るとどこか冷たさを帯びていて、人間味がないように感じるのは...

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