久住尾花

「君、ここに来て何日になる?」


「5日前くらい……かなぁ?ここに運び込まれて何日眠っていたのか知らないけど。」


マスター、と政子に呼ばれていた少女は視線をカードに注目しながら俺に訪ねてきた。


「ここに来た理由は政子を探しに?」


「探しにって言うか政子の帰りが遅いから探してこいって言われて、気が付いたらここに来ていたというか……。」


近所にある怪しい洋館へ政子を探しに行ったらここへ来ていたのだ。

どうやって来たのか自分でも分からない。


少女はこちらを見ると、納得したように頷いた。


「であればすまない、多分ここに来たのは私のせいだ。」


口ぶりとは裏腹に特に悪びれている様子も無く、少女は形ばかりの謝辞を頭を下げて伝える。


「はぁ?」


「5年前、いや君からすれば数日前か。あの日、私は召喚魔法の実験儀式をしていてな、分かりやすい所で言えば……『レメゲント』はもちろん知っているよな?『ソロモンの小さな指輪』と言った方が良いか、

まぁ、あんな感じのもの呼び出そうとしていたのだ。しかし実験は何故か失敗、悪魔の一つでも呼び出そうとしていたらこの世界に逆召喚されてしまったというわけだ。君は近所の洋館に入り込んだ後にこちらの世界へやってきたのだろ?あの洋館は私の家だったんだよ、つまり君は私の実験に巻き込まれたわけだ。」


悪びれもせずに淡々と一連の出来事を説明する元凶に対して、怒りが湧いてこないのは状況に対して理解はしていても実感がイマイチないからだろうか。


そして今自分が置かれている状況、それ以上に俺には気になることが幾つかあった。


「5年前ってどういうこと……?」


まず、これが1つ目。

話からして、彼女たちがこちらの世界へ飛ばされた日時(日時と言うのは元いた世界での日時だ)と俺が飛ばされた日時はそう変わりが無いはずだ。

あっても精々2~3時間ほどの差だろうか。

なのに、なぜ5年もの歳月が経過してしまっているのか。


「それは私にも分からん、しかし向うの世界でのわずかな時間のラグがこちらの世界では致命的な時間の差になり得るというのは大変興味深いな」


そして、少女は小さく笑いながら、先ほどの様にまたぶつぶつと独り言を話し始め自身の世界へと没入していく。


「例えば君があちらの世界からこちらの世界に転移される際、その移動速度が光速の近似値を取った場合を考えろ。君と私たちとでは相対的な時間のラグが生まれた、いや!召喚魔法によって生まれたエネルギーと重力の関係を考えてみれば……いやいやまてまて、そもそもエーテルが存在しているこちらの世界にあちらの世界の物理法則が適用できると考えるのがそもそもの間違いであり……」


「一人でお話し中に悪いんだけど、君、いくつなの?」


彼女にはまだ答えて貰いたいことがあったのでこちらに戻ってきてもらう必要がある。


それは彼女自身についてであった。

あの洋館は、目の前の少女の持ち物だったらしい。

俺はてっきり偏屈で怪しい皺の多い爺さんが一人孤独に住んでいるものだと思っていた。

それこそ目の前の少女くらいの年齢の時からそう思っていたのだが、誰から譲り受けたものだろうか。


「50回目の10歳の誕生日を迎えてから歳も碌に数えてないな。」


少女は素っ気なく答えた。

恐らく冗談の類だと思うが、人を煙に巻くような発言はどうも年相応には見えない。

それに冗談をそのまま真に受けてしまえるほどの事態が俺の身に起こったのだから困ったものだ。


「君も起きしなで疲れてるだろ、気になることはままあるだろうがじきに政子が食事を持って来る。それを食ったら今日は休め」


少女はそういうと謎の装置を木製の代車に乗せ、部屋から立ち去ろうとした。

が、「あぁ」とそこで思い留まったのか、ベッドの隣へと近づいてくる。


「そう言えば自己紹介がまだだったな、私は久住尾花くすみ おばな、魔術師……科学者か?いや敢えて言えば真理探究者とでも言っておこうか。ともかく長い付き合いになると思うから宜しく頼む」


そういうと、俺に向かって手を差し出した。


「国衛くん」

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