第25話 魔法使いの噂・その後

「とりあえず、あの牧師野郎に関しては出入国禁止処置になった。まぁ明確に民間人を殺そうとしたのは、あの場に居た警官隊が全員見ているし、何より座敷童子の力をもってしても入院処置になったからな、この国の行政にしちゃ動きが早くて助かった」

 数日後に、あの事件の関係者で都合のあった人間がイーリスに集まって居た。

 全員に飲み物が行き渡っても会話が始まらなかったので、小林が事件のその後の対応を説明した。

「出入国……ということは、まだ国内にいるという可能性も考えていらっしゃるのですね」

「えぇ、八ヶ岳さんの仰るとおりで。これも座敷童子さんとこちらに最初から協力していた陰陽師が太鼓判を押してくれたおかげなんですがね、まぁどちらにしろ暫くは活動できないだろうという見解だったんで、捜索しつつってところですわ」

「丁奈の真名の本領とは言い難かったですがね。昔に比べて力の制御はしっかりしていましたが……」

「ちょっとおばあちゃん!私は……」

「えぇ、丁奈は魔法使いとか関係なく、平和な街の片隅で静かに暮らしたいというのはわかっているから大丈夫。でもねぇ、今回みたいなことがあるかもしれないと、ちゃんと練習しておきなさいとも言ったわよねぇ」

 サラの言葉に丁奈はバツが悪そうな顔をして小さくなる。

「別に責めているわけではないけれど……話し合いで解決しない人種もいるのは確かなのだから日々備えておきなさい」

「はぁい……」

 今回龍五郎を危険な目に合わせてしまったことから祖母の言葉に丁奈は落ち込んだ。

 龍五郎はその丁奈の顔をみて。

「いやぁ丁奈さんは悪くないですって、完全に通り魔にやられたって感じですし」

「ま、表に出るストーリーも外国人旅行者が通り魔したということになるからな。正直アレが民間人まで手を出して来ると予想していたにも関わらず対応が遅れた警察側の対応も悪かったってんで上もすんなり医療費負担を申し出たからお前さんが責任を感じる必要はこれっぽっちもねぇよ」

 龍五郎の言葉に続けて小林が丁奈の頭を撫でた。

「いやいや子供扱いじゃないですか!」

「俺からしてみりゃまだ子供だ」

 そう言って笑う小林の手を振り払うことは丁奈にはできずに頬を膨らませるだけで、それがまた集まった皆が笑うことになった。

「もう!皆笑うことないじゃない!」

「ともかくアレよ、当面の問題は解決されたってことでいいじゃない。今は乾杯してお祝いごとにしちゃいましょ。……ところで何を祝えばいいかしらね」

 笑う皆の中でいち早く笑い終えたルインがそんなことを言うと全員の笑い声が止まる。

「そういやそうだな、事件解決おめでとうというには犯人は逃げたままだしな……」

「そんなの、龍五郎の退院祝いでいいじゃないんですか?」

 小林の言葉に割り込む形で小虎が、龍五郎の肩に乗るようにしてそう言うと。

「いいんじゃないッス?今回俺なにもやってないッスけど」

「風太郎はうちで洗われてただけだものねー……でもそんな大変なことになってたんだねぇ」

「ちょっと美樹!?風太郎と一緒にお風呂入ったの!?」

「何考えてるのよ小虎、ペットを洗うのにわざわざ服なんて脱がないって」

「あ、完全に俺ペットなんッスね……食べるのに困らないからいいんッスけど」

 そのやり取りを見て、丁奈が気づいたようにハッとして。

「そういえば与次郎とくら助……」

「お二人には今、雨降り入道さんと一緒に地元の神様達への挨拶をしに行っていますよ。私が勧めたのですけれど……事後報告になってしまってごめんなさい」

「あ、そうだったんだ……でもうん、ぬりえちゃんのファインプレーだったかも。与次郎とくら助はあの人に対して無力だったろうから、そばにいなかったから今回足す方とも言えるから」

 雨ふり小僧である二人がグレイブヤードと対峙していたらと思うと丁奈は少し震えた。

 どうなったかはあえて想像しなかったが、ぬりえとルインでも時間稼ぎしかできなかったのだから想像しなくても結末が予想できてしまう。

「神様って……どの神様?」

 その丁奈を見てかサラが話題を変える。

「この地域でしたら天照様でしょうか。真っ先に行かなければならないわけですし……他にもスサノオ様にも挨拶しなくてはいけないでしょうし、猿田彦様や稲荷様にも……とにかくこの地域は地位の高い方が多いので時間がかかると思いますよ」

「まぁ……この地域は本当多いものねぇ、神社だけじゃなくお寺も多いですし」

「もしかしたら、今回の件でちょっと力を借りられるかもしれませんね。文字通りに神の威を借りることができるかもですね」

「あらまぁそれは頼もしいわね……できなかったとしても悪いことにはならないでしょうしねぇ」

 ぬりえとサラがそんな会話をしているが、丁奈達は束の間になりそうなこの平和を満喫するのだった。

「そういえば、名前が重要な感じの丁奈さんがつけた喫茶店の名前って、何か意味があるんです?」

 美樹がふと、そんなことを言うと丁奈は笑みを浮かべて。

「イーリスは古代ギリシア語で虹って意味なのよ。いろんな彩を持てる素敵な時間を過ごせるようにって思ってつけたの」

 大きな街の片隅にある喫茶店イーリスは、翌日から通常営業するのであった。

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街角の魔法使いさん 水森錬 @Ren_Minamori

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