第19話 子供の噂・その後

「じゃあ君はくら助。……どうかしら?」

「くらすけ……いいなそれ!」

 くら助と呼ばれた雨ふり小僧は嬉しそうに走り回った。

 丁奈以外は一時的に姿を消してイーリスに戻った後、ルインに血の滲んでいた服を見て少し騒いだもののぬりえが説明をしてくれたので丁奈は着替えるために部屋に入ったところで名づけていなかった雨ふり小僧がついてきてしまっていたのだった。

 その時『おれはまだなまえ、ないぞ』と寂しそうに言ったものだから、丁奈は血のついてしまっている服を脱いだだけの状態だが、仕方ないと苦笑しながら名前を付けてあげた。

「それじゃあ私はお着替えするから、皆のところで待っててもらっていいかしら」

「なんでいっしょじゃだめなんだ?」

「んー……」

 丁奈は困ってしまう。

 くら助はまだ産まれたばかりの妖怪で、会話などは成立するものの人の常識などは持ち合わせていないし、恥ずかしいなどの感情も知らないのだ。

 となれば今丁奈が思っている言葉の数々はくら助にとっては難しい、わからない言葉の数々であって……自分の語彙力の無さを痛感させられると同時に、子供ができたらこういう体験は必ず通る道なのだろうとは思うのだが……。

(私はまだそんな歳じゃないしなぁ)

 という思いもあって困った表情になってしまうのである。

 くら助もそんな丁奈の表情を見て感じ取ったのか。

「てぃなのかおみてたら、なんだかわからないけれどだめなんだなってわかった。よじろうたちのところでまってるよ!」

 丁奈はそんなくら助の言葉を聞いて驚いたが。

「うん、ありがとうくら助。後でお菓子作ってあげる」

 丁奈が笑顔で言うと、くら助も満面の笑みを浮かべて部屋から出ていった。

 最も、ドアは開けっ放しなのはあったものの、くら助は子供どころか赤ん坊なんだなと思うと丁奈としては悪い気はしなかった。

「うーん、こういうのが母性って奴なのかな……」

 案外、悪くないな。

 丁奈はそう思いながら急いで着替えてお菓子を作ってあげるために皆の待つイーリスの店舗部分へとスキップしながら向かったのであった。

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