第47話.勧誘
リルさんの家を出て俺が次に向かったのは、シャルとクレアの所だ。
「バルトお兄ちゃんお帰りなの!」
宿屋に入るとクレアが抱きついてきたので、その勢いのまま抱っこした。
今はお客のピークも過ぎ、宿屋には客はいなかった。
「ただいま。お手伝い頑張ってたか?」
「うん!」
「そうか、クレアはお利口さんだね。」
「えへへへ。」
クレアは満面の笑みで笑った。
俺がクレアを降ろすと厨房からシャルとおばちゃんが出てきた。。
「お兄さんお帰りなさい。」
「おや、早かったね。」
「ただいま、シャル。意外と早く用事が終わったもので。それで、おばちゃんに話があるんですけど、いいですか?」
「ああ、いいよ。今は客もいなくて暇だしね。」
「クレアとシャルは2階の部屋でウィルと遊んでてくれるかな?」
『わかった!』
二人が2階に行ったのを確認して話し始めた。
「実は俺、今日から貴族になったんです。」
「それは本当かい!?」
おばちゃんは驚きを隠せないようだ。
「はい。でも、俺の領地にある村はかなり小さくて、ある目的のためにはその村を大きくしないといけないんです。俺はシャルとクレアを連れて、その村で暮らすつもりです。」
「それは寂しくなるね。」
「そこで相談なんですけど、俺達一緒に村に来てくれませんか?」
俺は、おばちゃんも一緒に来てくれたらなと思っていた。
まず、村を大きくするには人を集めないといけない。
そのためには店が必要だ。
店の中でも大切なのは、宿屋だと俺は考えている。
旅人が泊まることのできる場所がなければ客は寄り付かない。
新しい場所に人が来るのは、通りかかったか、観光、もしくはそこに住む以外にない。
最初から、村に新しい人が住んでくれるとは思っていない。
通りかかったり、観光したりして泊まってもらうことで、この場所の良さを知ってもらうのだ。
そうして初めて人が住むようになるのだ。
まあ、シャルとクレアもおばちゃんのことが好きだから来てほしいと言うのも勿論ある。
俺も忙しくなるから二人を見ていてくれる人が必要なのだ。
「また話が急だね。どうして私に付いてきてほしいんだい?」
「村を大きくするには宿屋が必要だからです。だから、おばちゃんには俺の領地の村で宿屋をしてもらいたいんです。それに、クレアとシャルもおばちゃんのことが好きなようだから、お別れすることになったら悲しむと思うんです。」
「そうだね……私はもう、あの子達やあんたがいない生活は考えられないものね。――私も一緒に行くことにするよ。ここに未練もないしね。でもいいのかい?私には新しい宿屋を建てられるほどの金はないよ。」
おばちゃんは早くに夫を亡くしている。
夫は冒険者だったそうだ。
そこそこの稼ぎがあり、2階建てのこの家を買ったらしい。
でも、夫を亡くし子供もいなかったおばちゃんは、寂しさを忘れるために宿屋を経営し始めた。
子供がいないおばちゃんは、良く会いに来てくれる俺とここ何週間か面倒を見ているシャルとクレアのことを、息子や娘のように思っていてくれているのかもしれない。
「ありがとうございます!それは大丈夫です。俺の方で何とかするので。」
これでおばちゃんも来てくれることになった。
ここまで驚くほど順調に来ている。
我ながら運が良いものだな。
「それなら良かったよ。ところであんたの領地の村は何てとこなんだい?」
「北西にあるマラアイ村って所ですよ。」
「聞いたこともないね。」
「小さな村ですからね。あと、視察もかねて1ヶ月ほど村にいようと思っているのですが、その間シャルとクレアを見ておいて欲しいんです。おばちゃん達が村に行くのも、俺が視察を終えた時にと思っています。」
「私は大丈夫だけど、あの子達は嫌がるだろうね。」
「そこは……頑張ります。」
俺は2階に上がり、ウィル達がいる部屋に入る。
二人はウィルの毛を触って遊んでいた。
「バルトお兄ちゃん!お話終ったの?」
「うん。それでね、二人に話があるんだ。」
「なぁに?」
クレアは可愛らしく首を傾け尋ねた。
「あのね、ちょっとお出かけしないといけなくてね、1ヶ月ぐらい帰ってこれないんだ。」
『え!?』
二人が絶望の眼差しで俺を見てくる。
そんな顔されると物凄い心が痛むのだが。
「それでね、その間おばちゃんの家でお泊まりして、お手伝いして欲しいんだ。」
「ちゃんと帰ってくるの?」
クレアが不安そうにそう聞いてきた。
最近元気が出てきたとは言え、まだ親を亡くしたばかり。
親しい人と1ヶ月とはいえ離れるのは辛いのだろう。
「うん。ちゃんと帰ってくるよ。それまで良い子に待ってられるかな?」
「うん!」
「シャルも大丈夫かな?」
「どうしても行くんだよね?」
「うん。大事なことをしに行くんだ。」
「分かった。寂しいけど我慢する。」
「ありがとう。」
2人の頭を撫で礼を言う。
もう少し駄々をこねるかと思っていたけど、二人とも良い子でよかった。
「明日出発するから、今日はずっと一緒にいようね。」
『うん!』
それからは特にすることも無かったので、俺もおばちゃんのお手伝いをシャルとクレアと一緒にした。
その日初めて二人の働きっぷりを見たけど、話しに聞いてた通り人気が物凄かった。
夕食時には、冒険者や仕事帰りの人が集まり、二人の事を微笑ましく見つめている。
二人も本当に楽しそうにしており、それをこの眼で確かめることが出来たので良かったと思う。
その後、ここで夕食を頂き泊まっている宿屋に帰って、シャルとクレア、ウィルと一緒に眠った。
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