第36話.オーガ(2)

「グォォォーーー!」



俺に気づいたオーガが吠えた。



それを合図に、手下のオーク5体が俺に襲いかかってきた。



そんなオークどもは俺の敵ではなく簡単に斬り殺した。



手下を殺されたオーガは怒っていた。



こいつはさっきまでと同じようにはいかないだろう。



だが、スピードは俺の方が上だ。



瞬時に後ろに回り込み、オーガの背中を斬る。



しかし、俺の刃はオーガを貫くことは出来なかった。



「パキィ」



甲高い音が上がる。



それは、俺の剣が折れた音だった。



「なんて硬さしてやがる!」



オーガは、振り向きざま俺に斬りかかる。



「くっ!」



折れた剣を捨て避ける。



スピードは俺の方が上だから避けることは造作もない。



でも、武器がない。



こいつを倒せるだけの攻撃力が俺にはないのだ。



強化魔法を使っているから、打撃の攻撃力ももちろん上がっている。



でも、決定打にはなり得ない。



雷魔法を使いたい所だが、今は強化魔法を使っている。



俺は、まだ二つの魔法を同時に展開することができない。



つまり、雷魔法を使おうとすれば強化魔法の効果が切れてしまうのだ。



一撃で倒せれば問題ないが……もし倒せなかった場合俺が死ぬ。



今はオーガの攻撃をかわせているが、それは強化魔法を使っているからだ。



通常の俺ではかわすことなど出来ないだろう。



だが、このままでは埒があかないのも確か。



ここは、雷魔法に賭けるしかない。



オーガと距離を取り強化魔法を解除する。



「雷槍!」



雷で槍状のものを作り、それを投げつける。



その貫通力は凄まじく、オーガの硬い皮膚と言えど貫くことはできる威力のハズだ。



オーガはその間にも距離を詰めてきていた。



俺の攻撃はオーガの心臓目掛け飛んでいく。



「よし!」



俺は心臓に突き刺さったと思った。



でも、オーガはその攻撃をすんでのところで回避しようとし、槍は左肩に突き刺さった。



「グァァァ!」



オーガは顔を歪めはしたものの、そのまま横なぎに剣を振るってきた。



一瞬気が抜けた俺は、反射的に腕を前に出しガードした。



以前までなら、この腕は無くなっていたことだろう。



今の俺には防具がある。



反射的にとはいえ、腕を出したことにより防具が剣を防いでくれた。



さっそく買っておいた防具が役にたったのだ。



だが、斬撃を防ぐことは出来ても、衝撃までは防ぐことは出来なかった。



オーガのパワーに耐えきれず吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。



「ガハァ。」



俺の口から血が吐き出される。



この世界に来て初めてのまともなダメージ。



全身を裂けるような鋭い痛みが襲う。



衝撃で視界も霞んでいる。



物凄く痛い。



だが、そんなことは言っていられない。



オーガは、既に止めを刺そうと走り出している。



詰めよって来ているオーガを見た俺は、もう一度強化魔法を使い回避する。



大丈夫、なんとか動ける。



クソ、オーガも傷を負ったとはいえ致命傷ではない。



もう一度雷魔法で攻撃したいところだが、次ミスると俺の体が持ちそうにない。



どうすれば……



そんなとき俺の視界に入ったのは、さっき殺したオークども。



そのオークどもの所には、オークが使っていた槍や剣が落ちていた。



武器がある!



だが、その武器はどう見ても鈍だ。



この武器ではオーガの皮膚を斬ることは出来ない。



でも、これしか武器はない。



考えろ考えろ考えろ!



何か手はあるはすだ。



強化魔法を解除する訳にはいかない。



強化魔法……強化魔法……



そのときふと思った――武器にも強化魔法をかけられないのかと。



そうだ。何も強化魔法は自分だけにかけるものじゃないはずだ。



武器にも出来るはず!



同じ強化魔法だから、体にかけている方も解除されることはないだろう。



そう思い立った俺は、すぐさまオークの武器――槍を拾う。



槍に力を流すイメージを思い描く。



「武器強化。」



出来たのか?



初めてやることだから、成功したのか分からない――実際にオーガに攻撃するまでは。



俺はオーガの後ろに回り、槍を突き刺した。



グサァ!



「グァァァーー!」



オーガが苦痛の声を上げる。



槍は貫通し突き刺さっていた。



成功した!



ここからは俺の独擅場である。



俺はまた武器を拾い、オーガに突き刺す。



オーガには4本の槍が刺さっている。



それでもオーガはまだ動き続けているが、動きはさっきより明らかに鈍い。



俺は残り1つの武器の剣を拾い強化魔法をかける。



「グォォォーーー!!!」



オーガの最後の抵抗。



その砲口には死んでたまるか!という想いがビシビシと感じた。



「悪いな。お前は俺を怒らせた。だから……死ね!」



オーガの攻撃を避けた俺の剣はオーガの首を斬り落とした。

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