第37話.姉妹

強化魔法を解除する。



「はぁ……はぁ……はぁ」



危なかった、何とか勝てた。



ここまで苦戦したのは初めてだ。



武器に強化魔法をかけることを思い付かなければ、俺の方が敗けてたかもしれない。



「あ……」



――俺はオーガ達を殲滅したことにより、理性を取り戻し始めていた。



やば。さっきの女性達に普通にタメ口きいちゃったよ。



普段なら絶対敬語使うのに。



俺キレるとあんな性格になんのか。



自分が自分じゃないみたいだった。



あの時はオーク達を殺すことしか考えられなくて、それ以外に気が回らなかった。



冷静になると凄く恥ずかしい。



殺されていた3人の女性のところまで行きしゃがむ。



「助けられなくてごめんなさい。でも、もう大丈夫です。安らかに眠ってください。」



この遺体を村まで運ぶには人の手が足りない。



だから、取り敢えず先ほど助けた女性達を村まで連れていくことにした。



そこまで行こうと来た道を戻っていたとき、何かの気配を感じた。



「誰だ!?」



そこにあるのはゴブリンが入れるぐらいの小さな亀裂。



そこから何者かの気配がするのだ。



もしかしたら、この中にゴブリンが潜んでいるかもと警戒する。



しかし、そこから出てきたのは小さな女の子二人だった。





◇   ◇   ◇   ◇   ◇





私がクレアを守らないと。



だって私がお姉ちゃんなんだもん。



横にはクレアがいるけど、この状況を分かっているのかな。



なんだか、少し楽しそうなんだけど。



もしかして、かくれんぼでもしているつもりなのかな。



今はこの隙間に隠れているけど、ずっと隠れてはいられない。



お腹も空いてきちゃったし。



「誰か早く助けに来て!」



そのとき、どこからか声が響いてきた。



それも男の人の声。



助けに来てくれたのかな?



希望を抱きながら待つこと2分。



私達の前を誰かが凄いスピードで通りすぎて行った。



「何、今の?」



その直後、オーク達の叫び声が聞こえてきた。



「誰かが助けに来てくれたんだ!」



それから15分後、戦う音が聞こえなくなった。



勝ったの?敗けたの?



男の人が勝ったのかどうかが分からない。



もし、オーク達が勝ったとしたら今出ていくことは出来ない。



段々と足音が大きくなって私達がいるところで止まった。



「誰だ!?」



聞こえてきたのは男の人の声。



勝ったんだ!



私、クレアを守ったよ、お母さん!




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「お兄さん!」



知らない女の子が1人抱きついてきた。



「え?」



急にそんなことをされ戸惑いを隠せない。



「お兄ちゃん!」



すると、それを見たもう一人の子が真似して抱きついてきた。



「えっとー、そろそろ離れてもらってもいいかな?」



「えへへ。お兄さん助けに来てくれたんでしょ!?」



俺は同じ目線までしゃがんで答える。



「そうだよ。君達はずっとここに隠れてたの?」



「うん!」



「そっか。偉い偉い。」



そう言いながら頭を撫でると、女の子は気持ち良さそうに目を細めた。



それにしても、こんな子供まであのオークは拐ってたのか。



またオーク達への怒りが沸いてくるが、女の子の笑顔を見ていると不思議とそんな気持ちも失せてくる。



でも、本当に殺されてなくて良かった。



「君達の名前教えてくれるかな?」



「いいよ!私はシャル。8歳だよ!この子のお姉ちゃんです!」



最後の方は胸を張って言っていた。



セミロングのオレンジ色の髪、大きな目、子供特有の愛らしい顔、この時点で将来、必ず美人になることがわかる。



「私クレアなの!まだ5歳なの!よろしくなの!」



クレアは抱きつきながら俺を見上げる形で言う。



ズキューン!



ヤバ、物凄く可愛い!ずっと撫でていたい可愛さだ。



クレアはまだまだ幼く、姉妹だからどことなく顔立ちはシャルに似ている。



シャルと同じくオレンジ色の髪で長さはショートカットだ。



二人は似ているが、どうやら瞳の色が違うみたい。



シャルはブルーの瞳で、クレアはエメラルドグリーンの瞳。



クレアはいつも満面の笑みで、見ているとこっちまで自然と笑顔になる元気いっぱいの女の子だ。



「俺はバルトだよ。二人ともよろしくね。」



『うん!』



うーん、どうしようかな。



ウィルの所に戻りたいけど、そこには裸の女性達や死んでいるオーク達がいるし。



あまり、この子達に見せるのは教育上良くないよな。



先に村まで連れていくか。



「よし!シャルちゃん、クレアちゃん今から村まで連れていってあげるね。」



俺がそう提案するも、シャルちゃんはイヤだと首を振った。



「お兄さん、私お母さんに会いたい。ここにいるはずだから。」



「そっか……うん、分かった。じゃあクレアちゃんと少し待っててくれるかな?すぐ戻るから。念のためまたそこに隠れててね。」



「うん!」



「加速。」



強化魔法を使い一度村まで戻る。



「すごーい!速い速い!」



後ろからクレアとシャルが喜ぶ声が聞こえた。



村に着くと、村の中央で全員が俺の帰りを待っており、俺を見るとアドクが近づいてきた。



「おおー!無事に戻ったか!それで、村の女達は?」



「一先ず無事です。ですが、今から言うものを準備してください。女性達の服と体を拭くもの、水を10人分。お願いします。」



「分かった。今すぐ準備しよう。皆聞いたな。今すぐ持ってくるのじゃ。」



『はい!』



村人の何人かが家に入り、しばらく待つと服や水を持って出てきた。



「ありがとうございます。」



服や水をバッグに入れ洞窟まで戻る。



そして、シャルとクレアの所には寄らずに、先にウィルの所に行く。



「ウォン!」



俺に気づいたウィルが、体を寄せてくる。



俺が撫でてやるとウィルは気持ち良さそうにしていた。



女性たちも起き上がれるぐらいには回復したようだった。



「あの!助けていただき、ありがとうございました!」



女性達がそれぞれ礼を言ってくる。



てか、冷静に考えると裸の女性を前にしているわけで、そう考えると恥ずかしくなってきた。



「すいません。取り敢えず服とか持ってきたので、着てください。」



バッグから服、布、水を取り出し後ろを向く。



「はい……」



俺が顔を赤くし、恥ずかしがったことで女性達も急に恥ずかしくなったようだ。



「もう大丈夫です。」



「えっとー、皆さん歩けますか?」



「ふふふ。」



一人の女性が笑い、それにつられて残りの女性も笑う。



「え、なんですか?」



なぜ笑われているのか分からない戸惑う。



どこか可笑しいところでもあったのだろうか。



「いえ、普段はそんな感じなんですね。最初は少し怖い感じだったのに、今は優しそうなのでおかしくて。」



「あー、あれは忘れてください。」



「ふふふ、嬉しいんですよ。私達の為に怒ってくださったと言うことですから。」



「そうですよ!」



なんか恥ずかしいな。



そうそう、あの事を聞かないと。



「あ、シャルちゃんとクレアちゃんって知ってますか?」



「ええ、もちろん。あの子達は無事なんですか!?」



「はい。大丈夫です。それで、その子達のお母さんって何処に……」



「他の所に連れて行かれたはずですよ。」



「え……」



もしかして、あそこにいた3人の女性の死体。



その内の一人があの子達のお母さんってことか。



「どうかしたんですか?」



「3人の女性が死んでいました。その内の一人が多分……」



「そんな……」



場に重い空気が流れる。



「あの子達の父親は?」



「……殺されました。」



「な!」



あの子達にはもう両親がいないのだ。



まだあんな小さいのに……



「クレアちゃんを守ろうとしてオークに……」



「そうですか。――取り敢えず村に帰りましょうか。俺はまだすることがあるんですけど、付いていかなくても大丈夫ですか?」



「はい。大丈夫です。村でお礼の準備をして待ってます。」



それぞれがお辞儀をしてこの場を後にした。



俺はオーク達の死体をバッグに入れていく。



解体すれば金になるからだ。



だが、この作業は単なる時間稼ぎにすぎない。



心がやるせない気持ちに覆われる。



早くあの子達の元に行くべきだろうが、あの子達に会わせる顔がない。



あの子達に何て言えば……



脳裏にあの子達の笑顔が浮かび上がる。



事実を知ればあの子達から笑顔が消えるかもしれない。



まだ、あの子達は小さい。



事実を受け入れるだけの心が出来ていない。



オーク達の死体をバッグに入れるこの作業が、永遠に終わらなければ良いなと思っていた。

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