第33話.エルミアの頼み



早朝、広場で毎日の習慣である素振りをしていた。



毎日最低でも2時間は剣を振ったり、筋トレしたりしている。



その内容は家族といた村でやっていたことと同じだ。



1時間はひたすら剣を振ったり、街の外に出て木を蹴り、落ちてくる葉っぱを斬るということをしている。



そしてもう1時間は想像の中の敵と戦う。



バルトは人より想像力が優れている。



想像力が優れているということは、先を読むことに長けているとも言える。



そんなバルトが想像する敵は最強の敵である。



それを想像できるだけの材料はある。



元の世界では、アニメや漫画、ゲームがあった。



それに登場する主人公は最強である。



それを見ていたバルトにとって、最強の敵を想像することは簡単だ。



その敵と毎日戦っている。



もちろん勝てはしない。



だが、強い敵と戦うことで成長スピードはグンっと早くなる。



スポーツでも弱いやつより強いやつとやった方が強くなれる。



それと一緒でバルトも日々強くなっていた。



また、最近では魔法の稽古もする。



魔力操作や威力、繊細なコントロールや新しい魔法の練習をしている。



稽古を終える頃には正午近くになっている。



宿屋に一旦戻り、飯を食べてから防具を受け取りに鍛冶屋に行く。



カランカラン。



アルバの鍛冶屋に入るとドアにつけられている鈴の音がする。



その鈴の音を聞いて、アルバが裏から出てきた。



「お!来たか!今持ってくっから待ってな。」



「はい。」



しばらくすると防具をもって出てきた。



「一応もう1度着けてみてくれ。」



着けてみるとピッタリだった。



改めてみても、この防具は綺麗だ。



高かったけど買って良かったと本当に思う。



「ピッタリです!」



「それなら良かったよ。また何かあったら来てくれな!」



「はい。」



気に入ったので防具は外さず、そのまま着けていった。



これで見た目、冒険者っぽくはなった。



次は解体所に金を取りに行く。



ラッシュさんを見つけるも、魔物を解体している途中だった。



「ラッシュさん金を受け取りに来ました。」



「おう!ちょっと待ってな。」



解体が終わるまで待つと、ラッシュさんが金の入った袋もってやって来た。



「待たせたな!内訳だが、オーク1体の肉が銅貨20枚、革が20枚、その他の素材が銅貨10枚。それが30体だから、合計銀貨15枚だ。そこから4日分の肉と解体費用を引くと、銀貨14枚だな。確認してくれ。」



袋の中身を確認する。



「確かにいただきました。」



「後これは、4日分の肉だ。」



布に包まれた肉を渡される。



「ありがとうございます。あの、その他の素材って何ですか?」



「ん?ああ、睾丸とか血、臓器とかだな。精力剤なったり乾燥させて薬になったりするんだ。」



「へー、そうなんですか。それにしてもこんなに貰えるなんて、オークって楽に倒せるわりに稼げるんですね。」



「いやいや、兄ちゃん。それはないぜ。他の初級冒険者は最初にオークに躓くというのに。中級冒険者でも、オークの皮膚には苦戦するんだぜ。それに、オークを倒すときは基本パーティーを組むから、報酬も減るんだ。さらにだ、初級冒険者は魔法のバッグを買わなければ、倒したオークをここに持ってくることも難しい。ギルドに頼めば回収しに行ってくれるが、他の魔物に荒らされていたり、回収できても肉や素材はダメになっていることも多い。ま、兄ちゃんが特別ってことだな。巷ではスーパールーキーなんて呼ばれてるんだぜ。」



そうか……俺は魔法を使えるから簡単に倒せるけど、他の冒険者は基本使えないんだもんな。



俺も魔法を使えなかったときは、少し苦戦したし。



てか、スーパールーキーってなんだよ!



「え、そんな風に言われてるんですか。初めて聞きましたよ。」



「ん?そうか。結構有名なんだがな。いつも狼を連れているから分かりやすいし。そのウィルが兄ちゃんのシンボルにもなってきているようだぞ。」



「マジですか。」



知らぬ間に有名になっていたらしい。



有名になれば称える者もいれば、逆に妬む者もいる。



面倒なことが起きなければいいが……



――あ、しまった!これはフラグを立ててしまったかもしれない。



うわー、これ絶対何か起こるパターンだわ。



「ああ。いつか兄ちゃんの耳にも入ってくると思うよ。――そろそろ仕事に戻るとするか。また何か倒したら持ってきてくれや。」



「はい!」



解体所での用事もすんだのでギルドに行く。



ウィルのことを聞くためだ。



「エルミアさん、こんにちは。」



「バルトさん!こんにちは。今日はどういったご用で?」



「エルミアさんにウィルのことを聞きたいなと思いまして。」



「ウィルさんのことですか?」



「はい。ウィルの種類って分かりますか?」



「え?今まで知らなかったんですか!?」



「ええ、まあ……」



「ウィルさんはノウブルウルフだと思います。Aランク相当の魔物です。白い毛並みや体長が2~4mぐらいと大きいのも特徴ですね。また、凄く賢く、人間を罠にかけることも多いそうです。」



やっぱり上位種だったな。



ノウブルウルフ――気高き狼か。



いい名前だな。



てか2~4mまで成長するのか……でかいな。



まあ、大きくなったら俺を乗せられるようになるから、移動が楽にはなるが……街中を連れていくのは難しくなるかもな。



「へー初めて知りました。ありがとうございます。」



「いえいえ、ですが、知らなくても無理ないかもしれないですね。ウルフは毛並みや地域よって呼び名も変わりますし、種類も多い。だから、ウルフのことをまとめて狼って言ってるんですよ。だから、ウィルさんのことも皆狼って言ってますしね。」



「なるほど、だから今までノウブルウルフって言葉を聞かなかったんですね。」



「はい。あ、そうだ。今日って何か用事あります?」



「いえ、特には無いですけど。」



「でしたらクエスト受けませんか?実は、ここから南に10km行ったところにカヤ村があるんですけど、そこの近くの洞窟にオークが住み着いたみたいで、集落を形成して始めているようです。カヤ村にも被害が出てまして、村長がギルドに依頼を出してきたんです。報酬は銀貨1枚。正直、出来始めとはいえ集落を攻めるのにこの金額は低すぎるのですが、カヤ村にはその金額が限界なんです。そのため、誰もこのクエストを受けてくれなくて困っていたところなんです。Cランクのクエストなんですけど、バルトさんなら昨日オークを30体倒してきましたし、大丈夫だと思うんです。」



この話を聞いて、自分の故郷を思い出していた。



俺達の村も金がなく、裕福とは言えない環境だった。



そんな村が、俺が旅立つ時に金をかき集め、銀貨1枚を持たせてくれた。



カヤ村も同じような経済状況なのだろう。



それを思うと放っておくことなどできない。



それに誰かに頼りにされるのは、初めてのことだ。



その願いには答えたいと思った。



オークなら俺の敵ではないし、大丈夫だろう。



「いいですよ。」



「ほんとですか!?ありがとうございます!」



「じゃあ、今から行ってきますね。」



「今からですか!?準備などはしなくても大丈夫なんですか?」



「大丈夫です。」



「そうですか……気をつけてくださいね!」



「はい!」



ギルドを出てカヤ村に向かう。



しかし、ギルドを出てすぐ、誰かが俺達の後をつけていることに気づいた。

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