第14話.試験(後半)

アッシュと向かい合う。



前の二人ではアッシュの力を引き出すことは出来なかった。



だからどれ程の強さなのか未知数だ。



本気を出して、アッシュの想像を越えることができなければ勝つことはできない。



勝負は最初の数秒で決まる。



「準備は出来ているな。」



「はい。」



「それでは始めよう。お前から来い。」



試験が始まった。



アッシュとの距離は五メートルほどだ。



俺はあえて初心者同様の構えをする。



なるべく自然な下手さを演出するために前の二人の構えを真似ている。



これはアッシュを油断させるためだ。



綺麗な正眼の構えは、隙も少なく攻撃するのにも向いている。



だから、一対一では基本正眼の構えをするのだ。



しかし、今は片手で刀を持ち、正直言って隙だらけである。



そんな構えを見てか、アッシュの方も少し気を抜いている。



この状態なら勝てる可能性はある。



俺は近づいていき上段から軽く攻撃する。



こんな攻撃はアッシュなら余裕で防ぐ。



そんな攻撃を4回ほど行う。



アッシュの顔を見てみると、落胆したような顔をしていた。



雑魚しか試験を受けに来ないのだから、そんな顔もするだろう。



しかし、俺はここから本気を出す。



勝負は一瞬。



アッシュが油断仕切っているところで、一歩下がり下段から最速で振り上げる。



「な!」



アッシュは急な鋭い攻撃に驚くがなんとか防ぐ。



しかし、これで終わりではない。



アッシュが防ぐことは予想通りだ。



俺はそこからさらに、アッシュが持っている木刀めがけ振り下ろす。



その瞬間アッシュの手には物凄い衝撃が走る。



結果、衝撃に耐えられずアッシュは木刀を落としてしまった。



今の俺ができる最速の二連続斬り。



これはアッシュの予想を上回ったようだ。



その前の軽い攻撃も良かった。



人間、急な速さの変化には付いていけないものだ。



「勝負ありですね。」



木刀の切っ先をアッシュに向けて言う。



「ハハハハハ、やるな!最初の攻撃は俺を油断させるためか。まんまと引っ掛かったぜ。お前は文句なしの合格だ。」



「ありがとうございます。」



「スゲー!勝っちまったよ!俺たちなんか手も足も出なかったのに!」



一番最初に試験を受けていた奴が叫ぶ。



騒がしいなあいつ。



俺とアッシュは入り口の方へと歩き出す。



「それにしても、試験官に勝つ奴は久しぶりだな。お前は将来有望だ。」



バチィンと思いっきり背中を叩かれた。



(めっちゃ痛い。)



「不意をついただけですよ。」



「それにあの攻撃は見事だった。あんな速い攻撃は初めて見た。正直油断してなくても防げたかわからん。」



べた褒めだな。



でも勝てて良かったと本当に思う。



クルムと合流したアッシュは少し離れ話している。



多分合否の確認でもしているのだろう。



「お前良く勝てたな!名前は何て言うんだ?」



一番最初に試験を受けていた奴が話しかけてきた。



「バルトです。」



「よろしくなバルト、俺はハックだ。」



「それにしても、どうやって勝ったんだ?最初は攻撃見えてたけど、最後は見えなかったぞ。気づいたらアッシュさんが木刀を落としていたんだが。」



「えっと、二連続で攻撃した。」



「マジか、スッゲー!ヤルクもそう思うだろう?」



「ああ。」



ハッシュがもう一人の男にも話しかけた。



「おいおい、それだけかよ。」



ヤルクはあまり喋らないみたいだ。



そんなことを話しているとアッシュ達が戻ってきた。



「よし、これで試験は終わりだ。結果はバルトとヤルクは合格だ。これからの詳しいことは受付で聞いてくれ。ハックは残念だったな。また、挑戦してくれ。」



結果を言うと二人は中へと入っていった。



「うわー落ちちまった!ヤルク、バルト頑張れよ!」



「はい。」



「ああ。」



ハックが先に入る。



ハックは落ちたけどそんなに悔しそうじゃない。



まあ、そんなに努力もしてなさそうだったし、遊び気分で受けたのかもな。



「じゃ。」



「あ、はい。また。」



ヤルクも中へと入っていった。



それにしてもヤルク口下手過ぎるだろ。



俺も口下手だと思ってたけど、ヤルクほどではないな。



自分よりも口下手な人を見て、安心するバルトであった。



「じゃ、俺たちも行くかウィル。」



俺もウィルとともに中へと入った。



中に入ると、既にハックの姿はなかった。



どうやらもう帰ったようだ。



そして、ヤルクが総合受付所で話している。



俺も総合受付所へと行き、さっきと同じ受付嬢であるエルミアの所に行く。



「あ、バルト様。お疲れさまでした。試験合格したのですね!良かったです。」



エルミアが満面の笑みで出迎えてくれた。



その笑顔は反則だと思う。


「はい。なんとか合格出来ました。」



「安心しました。えっと、バルト様の資料は……あ、ありました!え!?バルト様、アッシュさんに勝ったのですか!?」



資料を見て試験官に勝ったことを知ったエルミアが、身を乗り出して聞いてくる。



「ええ、まあ。」



「すごい、すごいじゃないですか!しかもアッシュさんの推薦でいきなりDランクからですよ!」



「え!?そうなんですか?」



「はい!こんなことは滅多にないんですよ!」



おお!勝って良かった。



FとかGから始めるのは面倒だなと思ってたし。



てか、今気づいたけどめっちゃ注目されている。



エルミアが大きな声で喋るから皆から見られていた。



「あの、エルミアさん。出来ればもう少し声を抑えてもらえますか?」



そこで、エルミアも注目されていることに気づいたようだ。



「す、すいません。」



エルミアの顔は真っ赤になっていた。



(うわ、可愛い。)



いちいち可愛いなこの人。



「で、では今後の説明をさせていただきますね。まず、始めにですね、こちらに触れてもらえますか?」



そういってエルミアが取り出したのは水晶みたいなものだった。



「これは?」



「はい、これは魔力があるかどうか判断するものです。魔力は一般的には貴族かエルフが持っていますが、稀にそれ以外の人でも持っています。魔法は、魔力があるかどうか知らないとそもそも使えないので、これで確認しているのです。魔力があるのにそれを知らずにいたら宝の持ち腐れですから。まあ、でも光ることはないと思い……って光ってるじゃないですか!?」



ためしに触ってみたら水晶が光った。



それもかなり強く光った。



正直まぶしい。



「光ってますね。」



手を離すと光も消えた。



「す、すごい!すごい!こんなに強く光ったの初めて見ました。もしかして、貴族の方ですか!?」



またエルミアさんの声が大きくなる。



「え、違いますよ。田舎で生まれた貧民ですよ。」



「貴族でもないのにこんなに光るなんて……貴族と同じぐらいの魔力?一体どれ程の魔力が――」



「エ、エルミアさん?」



何かエルミアさんがブツブツ言ってる!



自分の世界に完全に入っちゃってるよ。



俺も驚きたいのに、エルミアさんの驚き方がスゴすぎて逆に冷静になっちゃったよ。



それからしばらくエルミアさんは自分の世界に入り込んでいた。

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