第11話.旅立ち

俺はこの拮抗した状況を崩す為にわざと隙を作った。



そんなことをしたのは初めてだったので、あからさまな罠という感じになってしまったが、所詮はゴブリン。



まんまと引っ掛かってくれた。



ゴブリンが突きをしてくることは予測していた。



なぜなら、最速で繰り出せる技は突きしかないからだ。



予測できればかわすことは出来る。



その攻撃をかわし、首を切り落とした。



「はぁ、はぁ、はぁ」



何とか勝てた。



一歩間違えれば敗けていたのは俺だろう。



今回の一番の戦利品は、戦闘中にこういう駆け引きも必要なのだと学ぶことが出来たことだろう。



これは大きな収穫だ。



これでまた一歩強くなることが出来た。



「ピイー」



口笛で近くに隠れていたウィルを呼ぶ。



この口笛が゛来い〝という意味だと教えてある。



ゴブリンが持っていた素晴らしい剣を取り、洞窟の外に出るとウィルが待っていた。



そして、ウィルと共に集落の探索をし村に帰った。



まあ、あれから更に強くなっているから、今となっては苦戦したあのゴブリンにも余裕で勝てるだろうけど。





◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「バルト、元気でね。たまには帰ってくるんだよ。」



母さんが泣きそうになりながらも声を掛ける。



旅立ちの日、家族や村人に見送りをされていた。



元々は家族じゃなかったとしても、1年も一緒に暮らしていれば情も沸くというものだ。



「しっかりな。お前ならやれる!」



父もエールを送る。



「……」



そんな中、姉は声を掛けることなく、拳だけを突きだした。



意図を汲み取った俺は拳を突きだし、互いの拳を合わせた。



「バルト、頑張りな!」



姉は微笑んだかと思うと、そう言いながら俺の背中を思いっきり叩いた。



「いってーな!少しは加減しろよ。」



村人からも声援を貰い、俺は遂に旅立った。



――俺の横にはウィルがいる。



今では、大型犬ぐらいの大きさがある。



生後まだ1年ぐらいだと思うが、こんなに大きくなるとは思わなかった。



もしかして、まだまだ大きくなるのだろうか……



5ヶ月前まではあんなに小さくて可愛かったのに。






ここから一番近い冒険者ギルドがある街まで40キロある。



馬はないのでもちろん歩きだ。



日が沈むまでには着けば良いかなと思っている。



少ないながらもお金をもらってある。



このお金で宿屋に泊まって明日冒険者ギルドに行くつもりだ。



この世界の通貨には銅貨、銀貨、金貨がある。



金貨1=銀貨100=銅貨10,000だ。



母に聞いたところでは、銅貨10枚で安い宿屋には泊まれるということだった。



この世界で、銅貨、銀貨、金貨にどれ程の価値があるのかは分からない。



世界によって金の価値というものは変わってくるからな。



暮らす内に相場というものが分かってくるだろうし、それまでは無駄遣いはあまりできないな。



ぼったくられても困るし。



俺が母から貰ったのは銀貨1枚だ。



少なく思えるが、基本自給自足の村ではよく持っていた方ではあると思う。



食べ物は持ってきている。



猪の肉の干し肉に森で取れた果物などだ。



これだけあれば5~6日は大丈夫だろう。



村から出て四時間ぐらいがたった頃だった。



いち早く敵に気づいたのはウィルだった。



「ウォン」



ウィルが小さく吠えるということは、近くに何かがいるという合図である。



ウィルがみている方向を見てみると、犬みたいな頭をもつ人型の魔物が遠くに3体いた。



「あれはコボルトか」



元の世界でのゲームの経験が役立つものだ。



俺が魔物の名前が分かるのは、元の世界でRPGをプレイしたことがあるからだった。



この世界も元はAIが作ったもの。



そのAIも既存のRPGなどからモンスターを選んでいるはずのため、必然的にモンスターも俺が知っているやつである可能性が高い。



(コボルトは強いイメージは無かったが……油断はしない)



この距離なら無視して行くことも出来るが、そんなことはしない。



ゴブリン以外の魔物との戦闘は初めてだし、良い経験になる。



それに、ゴブリンと同じ人型である以上強さに対して変わりはないはずだ。



ウィルを待機させ、コボルトがいる方向に向かって歩き出す。



すると、コボルト達も俺に気づいた。



コボルトの手には小さなナイフが握られている。



剣を抜き更に近づくと、コボルトの1体が俺に向かって走り出した。



すると残りの2体も少し遅れて走り出す。



俺もそれに合わせて走る。



三体のコボルトはバラバラではあるが1列になるような形でこちらに走ってきている。



相手はナイフ、剣のリーチはこちらの方が長い。



それだけでもかなり有利である。



最初の1体。



コボルトは、走りながらその勢いで小さなナイフを突きだして来た。



俺は突きだしてきた腕を斬り上げ、その勢いのまま体を切斬る。



そして、後ろにいるコボルト達も斬り殺す。



その三体を倒すまで一瞬も止まることはなく、走り抜けた。



ほんの数秒で終わった。



「ふう、弱かったな」



やっぱり、強さ的にはゴブリンと一緒ぐらいだったな。


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