第10話.強者
あれから5ヶ月たった。
今日は15歳の誕生日である。
この世界では15歳で大人とされ、村から出て行くことも認められる。
この日のために俺は鍛えてきたのである。
街に行き冒険者となるために。
――この5ヶ月で、俺は更に成長した。
ラモンより断然に強くなってしまい、剣の稽古相手がいなくなってしまった。
そこで、俺がここ5ヶ月以上やって来ているのが目を瞑っての訓練である。
バルトは人より想像力が優れている。
想像力が優れているということは、先を読むことに長けているとも言える。
そんなバルトが想像する敵は最強の敵である。
それを想像できるだけの材料はある。
元の世界では、アニメや漫画、ゲームがあった。
それに登場する主人公は最強である。
それを見ていたバルトにとって、最強の敵を想像することは簡単だ。
その敵と毎日戦っている。
もちろん勝てはしない。
だが、強い敵と戦うことで成長スピードはグンっと早くなる。
スポーツでも弱いやつより強いやつとやった方が強くなれる。
それと一緒でバルトも日々強くなっていた。
また、速さを極めていくことにした。
俺の理想は神速の剣だ。
前の世界では、武器が刀のアニメを見たりやゲームなどをやったりしたもんだ。
抜刀術からの連続技は、ゲームをやってても気持ち良かったしカッコ良かった。
速さを極めるのに一番の練習は、落ちてくる葉を斬ることだった。
最初は全然だったが、次第に一振りが鋭くなり斬れるようになった。
だから、毎日この二つを重点的にやっていくことで、更に強くなることが出来た。
また、ウィルも成長した。
ウィルは1ヶ月も経たない内に命令をすべて覚え、森に連れていけるようになった。
なんて頭が良いんだと感激したもんだ。
そして、ウィルの活躍は凄まじかった。
いつもゴブリンの肉を食べていたからなのか、ゴブリンの臭いを覚えており、森に入って直ぐにゴブリンの臭いを嗅ぎ付けた。
そこからはゴブリンの狩り放題。
ウィルが次々とゴブリンを見つけていき、それを狩りまくった――森からゴブリンがいなくなるんじゃないかというほどに。
この5ヶ月で一番ピンチだったのは約85体のゴブリンが住む集落に遭遇したときだ。
1対1なら絶対に負けない自信はあるが、囲まれるとさすがに死ぬ。
その時は幸いなことに近くに洞窟があり、そこは大人が3人ギリギリ並べるぐらいの幅しかない。
だから、ゴブリンの主な武器である槍では、洞窟で横に凪ぎ払うことができないので、縦に振るか突くしか攻撃パターンはない。
攻撃パターンが最初から分かっていれば勝つのは簡単だ。
そこにゴブリン達を誘い込み最低でも1対2で戦える状況を作り出した。
それを40~50回繰り返し、何とか勝った。
しかし、1番の誤算だったのは集落のリーダーが他のゴブリンとは比べ物にならないほどの強さを持っていたことだ。
最後に現れたそいつは見事な剣を構えており、他のゴブリンよりも体が大きく、見るからに強そうだった。
あとで知ったのだが、そいつはホブゴブリンというゴブリンの上位種だったみたいだ。
今までのゴブリン達の攻撃は簡単にかわせていたが、こいつの攻撃はかわすことができなかった。
激しく剣と剣がぶつかりあう音が洞窟に何度も響き渡る。
先手をゴブリンにとられてしまったので防戦一方だ。
剣を打ち合いながら、ゴブリンが笑っているのが分かる。
自分が勝つことを疑っていない顔だ。
この状況を打破するべく一度距離を取ろうとするが、ゴブリンがそれをさせてくれない。
そんな危機的な状況にも関わらず俺は高揚していた。
久しぶりの死への恐怖。
しかし、そんな恐怖に体が硬くなることもなく、逆に興奮していた。
スポーツでも、強い人と戦うのは面白いとか楽しいと感じる人も多いのではないだろうか。
それと一緒で、最近強者と戦っていなかった――想像の中では強者と戦っていたが――バルトは、久しぶりの強者に喜んでいたのである。
自然と笑みがこぼれていたバルトの顔を見て、ゴブリンが不思議そうな顔をする。
(どうしてこいつは笑っているんだ?)
ゴブリンは不思議でたまらない。
絶対的な王者として、集落に君臨していたゴブリンには敵などいなかった。
こいつが、子分のゴブリンを全滅させたのには驚いたが、俺に勝てるわけがない。
今も俺が攻めまくっているのに。
だが、ゴブリンは本能で感じ取ってしまった。
こいつはヤバイと。
早くケリを付けないと負けてしまうと。
このゴブリンがここまでの地位になったのは、本能的直感が優れていたからである。
ゴブリンは、強いやつがリーダーとなる。
このゴブリンは直感で強者と分かる相手とは戦わず、自分が勝てると思う相手としか戦わなかった。
そうして、この集落のリーダーとなったのである。
そんなゴブリンの本能がこいつはヤバイといっている。
しかも、急にだ。
この人間が笑いだしてたから、本能がヤバイと告げている。
こんなことは、ゴブリンにとって初めてのことであった。
しかし、今さら逃げられない。
逃げようと背中を見せたら殺されて終わりだろう。
勝つしかないのだ。
そんなときだった。
人間に隙が出来たのである。
焦ったのか、今までの強固な守りをやめ、攻めに転じてきたのだ。
両手で持った剣を高く上げ、力任せに振り下ろそうとしているのか、胴がガラ空きなのだ。
この人間に圧倒的な隙が出来たのだ。
ゴブリンはあまりにも大きな隙に、考えるよりも先に体が動いてしまった。
胴に突きを入れようと一歩踏み出す。
しかし、ゴブリンの攻撃は当たらなかった
(え?)
そう思ったときにはゴブリンは死んでいた。
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