第4話.ゴブリン

翌朝、この村では太陽が上がると同時に起きるらしい。



太陽が沈むと眠り、上がると起きる。



なんて原始的な生活なんだ。



しかし、これこそが俺が求めていた物の1つだ。



不便だからこそいいのだ。



朝飯を食べているときに、俺はさっそく狩りにいきたいと言ってみた



「なに言ってんだい。森は魔物も出るし危ないんだよ。止めときな。」



母に止められてしまった。てか、やっぱり魔物いるんだな。



「そうだぞ、それに森に行くときは三人以上で行くのが決まりだ。それは知ってるだろ?」



そうなのか、それだと行くのは厳しいな……



「そうだったね、忘れてたよ。」



「なら午前中は畑仕事止めて狩りに行くか?」



「うん!」



俺がどうやって行くか考えていると、父の方からそう言ってきてくれたので助かった。



隙をみて抜け出すのも大騒ぎになるだろうし、無理して死ぬのもあれだったから丁度良かった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇






俺と父と父の友人の3人で森の中を歩いていた。



今まで父の名前が分からなかったが――母は父のことあなたとか、ちょっととかそんな風にしか呼ばないし、姉はお父さんとしか呼ばないので分からなかった――父の友人が名前で呼んでいたのでようやく分かった。



父の名前はクルシュと言うらしい。



ちなみに父の友人の名前はアグハである。



3人とも、弓と魔物用に剣を装備していた。



「いいか、バルト。危険を感じたら直ぐに逃げるんだ。分かったな。」



「うん。」



一時間ほど森のなかを歩くが、獲物は中々姿を現さなかった。



「今日は獲物一匹いやしねーな」



アグハが愚痴をこぼすがそれを父が宥めていた。



そんなときだった。



「カサカサカサ」



30メートルぐらい先の茂みで揺れる音がした。



その音に父とアグハも気づいたようだ。



二人とも背を低くし音をたてないようにし、俺にも同じようにしろと手で合図をする。



俺たちはその茂みをじっと見守る。



するとそこから体長90センチぐらいの猪が出てきた。



それを見た父は弓を構える。



しかし、父が弓を放とうとした瞬間、猪の体が何かに貫かれた。



「ギギィギギィ!」



猪が出てきた茂みからゴブリンが出てきた。



どうやら、ゴブリンが木で出来た槍で突き刺したらしい。



ゴブリンはそんなに大きくなく120センチぐらいの大きさだ。



(なーんだ、ゴブリンか。)



俺はその時なめていた。



ゴブリンなど、ゲームだと一番最初に出てくる雑魚中の雑魚。



だが、俺は思い知ることになる。



この世界はゲームなどではなく、現実なのだと。



ゴブリンを甘くみていた俺は、真っ正面からそのゴブリンに向かって剣を構えながら走っていった。



後ろから父とアグハの止める声が聞こえるが、無視した。



ゴブリンは猪を仕留めて喜んでいたが、俺が走り出したら流石に気付いて、槍を構えた。



俺はゴブリンが槍を突き出す瞬間に右にかわして、がらがらに空いた腕を切った。



「ギィ!」



そこで勝利を確信した俺は油断してしまった。



ゴブリンは腕を切られながらも、片方の腕だけで槍を振り俺の足を凪ぎ払った。



その衝撃で俺は転んでしまい、その上にゴブリンが乗り掛かり止めの一撃を刺そうとする。



俺はその時、ゴブリンの目を見てしまった。



その目には゛死にたくない〝とはっきりとした意志が感じ取れた。



あ、死んだ。



俺は思わず目を瞑る……がいつまでも刺された感触はなく、逆にゴブリンが俺の上から倒れた。



(助かったのか……?)



俺は隣に倒れているゴブリンを見てみると、頭に矢が刺さっていた。



「おい!大丈夫か!」



父が駆け寄り俺を抱き締めた。



「ばかやろ!魔物を甘くみるんじゃね!勝手なこともう二度とすんな!」



その声は少し震えていた。



よほど心配したのだろう。



「ごめんなさい」



あの矢は父が放ったものらしい。



俺は父に命を救われたのだ。



ゴブリンだからって舐めてた。



実際に戦うと、ゴブリンにも当たり前だか命があり、生きたい為に死に物狂いで戦っているのだ。



俺はその迫力に負けてしまった。



どこか、まだどこかゲーム感覚でいた俺だが、今回のことでその感覚はなくなった。



そういう意味では、死にそうになったがいい経験になった。



結果、死ななかったのだがらそれで良い。



だが、もう二度とこんなヘマはしない。



俺は心にそう誓った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る