第13話 秘密の場所で彼氏に捕まって
優希くんのことは大好きだし、一緒に居て落ち着くけど優希くんの幸せも考えたい。
よく病んで、死のうとして、心が皆の数倍、数十倍と弱い私になんか関わっていたら優希くんまで不幸になってしまうだろう。
そんなの嫌だ。良くない。
優希くんには幸せで居て欲しい。ずっと笑っていて欲しいからリストカットがバレたのは凄く良い機会だと思って優希くんの元から離れようと決めた・・・はずだったのに離れようとしたら優希くんに抱きしめられて離れられなくなった。
私のことをぎゅっと抱きしめた優希くんの声が耳元で響く。
「別れたくない・・・」
そう言われたって別れなければ優希くんのことを一生振り回して不幸にさせてしまう。
時間にして数秒だったんだろうが実感として永遠にも感じる時間が過ぎ、また優希くんが口を開いた。
「その、腕の傷。自分でやったの?」
さっき自分でやった腕の傷。優希くんは動揺したなんとも言えない表情で私の腕を見つめていた。
「やっぱ、答えたくないか。いいよ、答えなくて。探って悪かった」
「ううん、ごめんなさい」
「謝んなくっていいよ。いいけど・・・こういうことしたの何回目?」
「わかん、ない・・・。付き合う前からずっと・・・」
「付き合う前から・・・。俺には言えなかった?」
「ごめんなさい・・・」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。それ以上言うことが見つかんなくてリストカットをしてしまったこと、心が弱すぎること、優希くんに嫌われないように普通じゃない部分は隠したこと。全部全部「ごめんなさい」に乗せた。
「俺は、正直言って欲しかったよ。こうやって自分のこと傷つけて、自殺の名所なんか来る前に助けてってSOS出して欲しかった。」
すぅっと息を吸って声を発しようとしたときに優希くんの声が聞こえた。
「また、ごめんなさいって言うんだろ?違うぞ。こういうときはごめんなさいじゃなくて今度は助けてねって言うんだよ。分かった?」
「・・・辛かったら言う、から・・・今度は助けてください」
「うん。俺も、今回は気づいてやれなかったから。次からは優愛が自分から言えなくてもちゃんと気づけるようによく見てるな」
そう言う優希くんは少しだけ落ち込んで見えた。
付き合って何ヶ月も経ったけど見せられていなかった素顔も数多くある。だから優希くんも知ってるようで全然知らないと落ち込んでしまったのだろう。
そんなこと気にしなくて良い。私が故意に見せてこなかっただけだから。
言ったところできっと「でも・・・」となってしまうし、ごめんというのも違う。私は口をつぐんでその場の流れに身を任せた。
いつの間にかぎゅーから解放されていた私の体を優希くんが縁石に導いた。
「疲れたでしょ?一緒に座ろう?」
2人で並んで座るといつも中村さんと一緒に見る景色が広がった。
隣に居るのが優希くんってことがすっごく不思議な感じがする。
「今は、リストカットの理由とかそういうのは・・・聞かない。きっと今日は俺と高橋さんのせいだろうけど俺と付き合う前からってことは他に理由もあるだろうし。俺待ってるからさ。落ち着いたら話して」
「ありがとう・・・」
「話してくれるの待ってるし、俺はお前のこと大切に思ってるから離れようとするなよ」
そう言って優希くんは私の手をぎゅっと強く握った。
指を絡め取られて約束をするようにお互いの手をぎゅっと握りあった。
「なんか・・・優愛とは考えの根本というか深いところが一緒って感じがして俺は、一緒にして心地良い。考え方が似てる分、無理しないで居られるしこんなに気が合う人ってなかなか居ないから優愛のこと手放したくないな~って」
「私も・・・優希くんとは気が合っておんなじ考え方するんだなって思うよ」
「優愛も?ちょっと嬉しい。いや、かなりかな。俺のところが優愛にとって安心できる場所なのか不安だったから・・・」
不安、むしろそんな気持ちを優希くんに持たせてしまっていたのが申し訳なかった。
私は優希くんのことが大好き、だけど思い当たる節もある。男の人が怖くて、トラウマがあって好きな人にする態度じゃないことをしてしまったこともあるし、そういう1つ1つの行動を見て優希くんも不安な感情を抱いてしまったのだろう。
「大丈夫だよ、私は優希くんのところに居るから」
「ありがとう。俺の代わりに誰か相談に乗ってくれる人は居た?」
「うん」
「居るなら良いけど・・・どんな人?」
どんな人・・・。中村さんは優しい、年下だけど年下に見えなくて辛いときに甘えられる。けど、優しさはいっぱい知ってても橋で会う以外まるで接点がないから詳しくはなかった。
よく知らない同士だから甘えられるところもあるし、凄く助かってるけど優希くんは彼氏であり、中村さんは男の子。どこまで話してどこまで中村さんを褒めたら良いか迷う。
「優愛が頼れる人ってどんな人なのか気になる。」
私は一呼吸置いて話し始めた。
「この橋でしか会わないからよく知らないことも多いけど優しい人だよ」
「橋で会うだけかー」
「悩み話して帰ってくるだけだからお互いの個人的なことはあんまり知らない」
「ふーん、知らない人、じゃないか。顔見知りさんでも話せる人が居て良かった」
優希くんが優しく慰めてくれる。
もうリストカットのこともこの橋のこともバレたし優希くんにも相談しても良いのかなと思った。
「今日、さ・・・」
「なに?」
「朱音ちゃんと優希くんが話しているところ、たぶん結構最初の方から聞いてた・・・。だから、優希くんが悪いなんて思ってない。ちゃんと断ってくれてたでしょ?」
優希くんは顔に出るほど驚いたようだった。
驚いた顔をして私からの次の言葉を待っている。
「でもね、朱音ちゃんは私にとって親友・・・だと思ってたから。朱音ちゃんも私が優希くんと付き合ってるの知ってたし、私の惚気とか聞いてくれてその度に、良かったね、愛されてるねって言ってくれて。私勝手に祝福されてると思ってたから凄い悲しくて辛くなっちゃって・・・」
「そっか、そうだよな。俺から見ても優愛と朱音ちゃんって仲良いなって思って見てたし・・・」
「だからってここまで逃げてきちゃってごめんなさい。見つけてくれてありがとう」
優希くんにも言って無かったここまで探しに来させたこと、本当に申し訳ないと思った。
きっと大変だったと思う。こんなところに来ているなんてバレないように徹底して隠してきたし、普通の人なら来ない場所。そんなところに彼女がいると予測を立てて行動に移すなんて相当な想像力と行動力が無いと無理だろう。
それでも見つけてくれたことは素直に凄く嬉しかった。
「優愛が無事で居てくれて良かったよ。ここに来ようってなってから来るまで、優愛が死んじゃってたりしたらどうしようってすっごく不安だった」
「ごめんなさい・・・」
「もう良いんだよ。怒ってないから」
優希くんはもう一度ハグをしてくれた。
その温もりをずっと感じていたいと思った。
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