第12話 彼女の背中を追いかけて
「違うって。高橋さんの言ってることは全部嘘だから!俺は優愛のこと大好きだし、高橋さんのこと、恋愛対象として見てないから!あ、優愛・・・」
俺の声も届かず、優愛は教室から走って逃げてしまった。
「ふふっ、これで邪魔者は居なくなったし、また2人きりだね」
「高橋さん、もう辞めて!俺、帰るから・・・」
「え?でもやっと2人きりに・・・」
「俺は優愛のこと追いかける。今日はもう高橋さんも帰って!」
高橋さんとなんとか別れたあと、すぐに俺は校舎を飛び出した。俺が思い当たる場所を片っ端から探し回るけど優愛は居ない。
出てくる前に下駄箱を見て、優愛の靴が無いのは確認したから学校に居ることは無いだろう。だから、2人で行ったところを思い出して巡る。
電話が繋がるかと思って試みたけど優愛が忘れて行ったカバンの中からバイブレーションが聞こえてきた。
そっか、飛び出して忘れて行った中にスマホも・・・。
連絡を取る手段はもう無い。そうなると俺が直接探し回って見つけなきゃいけない。
色んなところを巡っているうちに辺りは暗くなり始めていた。
1人じゃ無理だと絶望して、しょうに一緒に探してくれるようにお願いすることにした。
「えっと、俺は彼女ちゃんを見つければ良いのか?」
「ああ。俺1人じゃ全然見つかんなくて」
「喧嘩でもしたのか?」
「あ、いや・・・。色々、な」
「あ、やまちゃん彼女ちゃん泣かせたんだろ」
「いや、違う!・・・違くないけど。高橋さんがあいつは俺の事嫌いだから私と付き合おうって。俺、ちゃんと断ったんだけど、抱きつかれたところにあいつ帰ってきちゃって。勘違いしたまま傷ついて逃げたって言うか」
しょうはなるほどね、と納得して協力すると約束してくれた。
次探そうとしていた公園を待ち合わせ場所に指定して2人で合流する。
しかし、その公園にも優愛は居なかった。
「マジか〜。優愛どこ行ったんだよ・・・」
「他、心当たりないの?」
「もう無いよ・・・。思い当たるところは全部行ったもん」
「橋も?」
「橋?」
俺はしょうから思いも寄らぬ単語を聞いて思わず聞き返した。
「やまちゃん彼氏なのに知らないの?」
「は?」
「彼女ちゃんのこと。たまに山奥の橋で見かける人が居るみたいだぞ。あんなか弱くて小さい女の子があんな所に居れば目立つからそこそこ話題になってるはず」
「聞いたことない・・・。どこの橋?行ってみよう・・・!」
しょうから聞いたのは広く浅く皆が知ってる自殺の名所だった。
場所はあまり知られてなくて、名所と言うだけで実際どんなところで、おかしな現象が起こるか否かも皆知らない。
ただ、皆あそこの自殺の名所と言えば「あそこね、」と知ってる反応をするし、YouTuberの方々はわざわざ調べて来る。そこで言われてる怖いことはYouTuberの方々の方が詳しいくらいだ。
優愛が本当に今あの橋に居るのなら一刻も早く行かないと手遅れになるかもしれない。
俺はしょうに連れられて橋に急いだ。
走って走って、途中の電車は各駅停車だから凄く焦れったかった。
橋に着くと優愛がぼーっと下を見下ろしていた。
「優愛!!お前ここで何してるんだよ!」
自殺の名所に来ていても無事で居てくれた安堵感と優愛のことを心配している気持ちからつい怒鳴ってしまう。しかし優愛はそれですっかり怯えてしまっているようだった。
「あ・・・急に怒鳴ってごめん。その、凄い心配したから」
「ほっといて・・・!」
「ほっとけるわけないだろ?ほら、こっちおいで」
俺の安心の為もあって優愛を橋から離す。
俺は優愛の手を取り、目線の高さまでしゃがむと目をちゃんと見て謝った。
「ほんとに悪かったと思ってる。言い訳みたいに聞こえるかもしれないけど・・・俺ちょっと不安になっちゃって。優愛は俺のこと、ちゃんと好きなのかなって」
「好きだよ・・・?」
優愛は俺が疑っていることを不思議がって、その後顔は悲しそうになった。
「うん、付き合ってくれたけど優愛の口から好きってちゃんと聞いたことないなって思ってさ。それで俺が好きかどうか信じられなくなってた。だから、これは俺が悪い・・・。それで、そういう不安なことを友達に話す流れで高橋さんにも言ってて。そしたら今日高橋さんが優愛から聞いたけど嫌いって言ってたって。だったら優愛と別れて私と付き合おうって、言ってきた」
「・・・」
「俺だって断った、けど。無理やり抱きつかれてそこを優愛に見られた・・・。いや、ほんとにごめん!故意にやってなくても悪かった・・・」
俺は優愛のことが好きだし、ずっと一緒に居たいと思ってるからと誠心誠意謝った。
優愛もずっと不安で、ほっとしたのか泣きながら抱きついてきてくれてそっと抱き返した。
「やまちゃん、彼女ちゃん見つかって良かったな。あとは2人でご自由に。俺帰るから」
「しょう、ありがとうな。しょうが居なきゃ見つからなかった」
しょうにお礼を行って帰っていくのを見送ったあともう一度優愛に向き直る。
「優愛、ここに来たの何回目?お前のこと、ここで見たことある人が居るってことは初めてじゃないよな?」
俺は出来るだけ優しく質問したつもりだったけどやっぱり答えにくい質問なのか黙ってしまった。
少し静かな時間が流れて優愛が口を開く。
「私が、ここに来ちゃうような子でも、優希くん嫌いにならない?」
「嫌いになんかならないよ。弱い部分見た瞬間に嫌い、なんてしないから。安心して!」
「ほんとに?」
「じゃあ、俺が、泣いてたり心が苦しくなってたら優愛は俺のこと嫌いになる?」
俺が質問すると優愛はブンブンと首を横に振った。
「嫌いになんかならないよ。優希くんの弱いところ知れて良かったって思うし、支えたいなって思う」
「それと一緒だよ」
優愛はもう一度黙った後口を開いた。
「何回も・・・来てる」
「そっか。じゃあ、来ても、死なないでくれてありがとう。生きてて、偉い偉い。」
優愛を褒めた後、俺はもう一度ぎゅっと抱きしめた。
頭を撫でてやると照れ隠しなのかぎゅっと顔を埋めてきてふふっと笑った。
「よし、だいぶ笑顔が戻ったね、ってあれ?お前手のところから血が出てる・・・」
「あ・・・ほんとだ。だ大丈夫だから!」
「どう見ても大丈夫じゃないだろ!見せて、手当てしてやるから」
「いいよ、後で自分でやる。ほら、今は傷口も洗えないし・・・!」
優愛は頑なに拒んだけど俺は説得して腕を見せてもらった。
真っ赤に染まった腕、もう場所がないくらいに赤い線が無数に入っていた。
正直俺もここまでとは予想してなくて言葉を失ってしまう。
「こんな子で、呆れたでしょ?リスカしちゃうバカでごめんなさい。もう、別れよ?別れた方がお互いの為だよ」
「は?」
目の前の状況、優愛が言っていること、何一つ理解出来なかった。
急に別れようと言われても理解が追いつかなくて頭の中で理解しようと繰り返すうちに逆にゲシュタルト崩壊した。
「私が、優希くんと一緒に居ても優希くんのこと悲しませるだけだから」
優愛がこの場から離れようとしたのを俺は咄嗟に引き止める。
なんて声をかけるのが正解なのかよく分からなくて短時間にいっぱい頭を回転させた。
考えた末に出てきたのは「別れたくない」で、それ以上もそれ以下も出てこなかった。
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