第9話 2人きりのお弁当
「優愛~、お弁当食べよ~」
「うん、今行く〜」
学校のお昼休み。いつもはもう少し大人数で食べてるけどこんな時期だから入試に行ったりしていて今日は私と朱音ちゃんの2人きりで食べることになった。元々朱音ちゃんとは仲が良いから2人でも特に気まずくもなく朱音ちゃんの机の方に寄っていく。
机に2人分のお弁当を広げた。私も、朱音ちゃんもお肉と言うより野菜メインのお弁当。
朱音ちゃんは自分の、私は近くから椅子を借りてきて2人で机を半分ずつ使って落ち着いた。
「はぁ、疲れた。ねぇ何であの先生あんなに話長いの?」
話題は4限目の授業を担当した先生について。朱音ちゃんの口から愚痴が飛び出した。
「色んな話してくれるし良いんじゃない?」
「えー、ダラダラ、ずーっと話してて眠くならない?私あの授業だとすぐ眠くなるんだけど」
確かに1つの話題に対してずっと話している先生だけどその分色んな知識を教えてくれて良い先生だ。
「悪い先生じゃ無いと思うよ。私は好きかな。あの先生の話」
「えー、よくあんな長~い話聞いていられるよね。尊敬しちゃうー」
朱音ちゃんは絶対に心では思ってないような棒読みの『尊敬しちゃう』を私にくれた。
今日の授業は退屈すぎて寝たという朱音ちゃんの話を聞いて私は少し得をした気分になった。
友達の不幸は蜜の味というわけでは決してないけれど先生は寝ている人が多いと起きている人に何か得なことを話してくれる。1、2年生とか3年生の前半の時はテストに出るところとか教えてくれたけど私たちにはもう校内テストは無い。
だから今日は卒業も近いし、たまには良いだろうと極々個人的な話をしてくれた。いつもの先生からじゃ想像できないような冗談を織り交ぜた楽しい話。
毎年学年の半分くらいは高校卒業を機に県外に出るからと先生が行ったことある土地の中で美味しいお店を紹介してくれた。
いつもに比べて得感はいつもより少ないけどそれでも見知らぬ土地にそれぞれ行く私たちにとっては嬉しい話だった。
授業中のことを回想してぼーっとしている所に朱音ちゃんの声が聞こえてきて現実に引き戻される。
「でもね?授業終わったあといい事もあったからあんな先生なんてどうだっていいの!」
「へぇー。いい事って何かあったの?」
「ひ・み・つ!」
私が食いついて掘り下げようとしたけど朱音ちゃんは口元に人差し指を当てて『しー』ってしながら笑った。
ついさっきまで起こったことの話は朱音ちゃんにはぐらかされた所で終わった。私が次の話題をと口を開こうとしたところで朱音ちゃんが先に声を発した。
「そう言えば、最近彼氏とどうなの?てか、好きなの?」
「なんで?好きだよ?」
「いや、だって付き合うって時に言ってたじゃん。告白されたけど好きでも嫌いでもないから迷ってるーって」
「今は好き!前は優希くんのことよく知らなかったし、好きも嫌いも分からなかったけど・・・。付き合って、知れば知るほど好きだなって思う。だから、今は大好き!」
「そっか。良かったね」
「うん!あの時、付き合ってみればって後押ししてくれてありがとう!」
付き合う時迷っていた私の背中を押してくれた朱音ちゃんに感謝して優希くんと付き合えた喜びを噛みしめる。
「ねぇ喧嘩とかしないの?色々話す?普段どれくらい一緒に居るの?」
「何か記者みたい」
私が笑うと朱音ちゃんはキリッとしてメモとペンを手に記者のまねをした。私から惚気を聞き出そうとする人は皆記者見たくなるのかと思いを巡らせる。しかしあえて比べれば朱音ちゃんの方が記者っぽかった。
「で?まずは喧嘩!するの?」
「無いかな。向こうが精神年齢大人で優しいって言うのもあるけど仲良くやってる」
私が少し嫌がるそぶりを見せれば謝って気を遣ってくれる優希くん。
されることはたいしたことじゃないどころか普通なら嬉しいことで私が慣れていない、たったそれだけの理由で気を遣わせてしまっているわけだから早く私も直さなきゃいけないことだけど今は凄く助かっている。
そんな優しい優希くんとは喧嘩をするどころか常日頃から甘やかされてるし、たぶん私も優希くんにとって何かしら役に立っているはずだ。自信は無いけど。きっと。
「ふーん、じゃあ次!どんな話するの?」
「色々だよ。その日あったこととか、お互いのこととか」
「優愛も色々話すんだ。優希くんが知らないことないくらい?」
「自分のこととか話すけど・・・話せてないこともそれなりに…あるかな。まぁ、それは今後だんだん話せれば良いかなって思ってる」
「へぇ、優愛が優希くんにも話せないことあるんだ。何話してないの?」
私が優希くんに話してないことは朱音ちゃんにも話してない。少なくとも朱音ちゃんに話していること以上の情報を優希くんには話している自信はある。だから何を話してないかと問われて答えるはずがない。今は優希くんにだって渋る話でなかなか朱音ちゃんには話しづらかった。
「教えてくれないの?」
「うーん。無理かな。人を選ばず話したくない」
「そっか。じゃあ次ね。えっと、普段どれくらい一緒に居るか、だったね」
聞きたいことをメモしたような紙を見ながら質問してくるが実際手にした紙は真っ白だ。それでも質問されたことには一応答える。
「学校以外だと結構一緒に居るよ。学校だとクラスも違うしなかなか一緒って無理だけど、バイトも一緒に行くし2人とも休みなら家で遊んだりするし」
「へぇー」
「優希くんがバイトなくても心配だからって私のバイト先までついてきてくれるの。嬉しい反面心配し過ぎだなぁって思う。たまに過保護すぎかなって」
「うーん、まぁ、いいんじゃない?放任よりは。愛されてるんでしょ?良いことじゃん」
朱音ちゃんは優希くんの心配し過ぎた行動を肯定して愛されてるんだねと自分の事のように喜んでくれた。
「優希くんみたいな彼氏、本当に羨ましい!」
「またそんなこと言って・・・」
「本当に思ってるから何回でも口から出る。うちの彼氏なんか短所だらけで困っちゃうよね。この間一緒に買い物行ったときなんか退屈だからって先に行っちゃうんだよ。優しい優希くんとは大違い・・・」
「そう?優希くんにだって短所はあると思うよ。完璧じゃなくて良いと思ってるし気にしないけどさ」
「それは理想論だよ。顔が良くて性格が良くて。センスがあって頼りがいがある男子じゃないと!」
朱音ちゃんが求める人は画面の奥の二次元に行かないと難しいと思う。それと同時にそういう人を追い求めるなら相当頑張らなきゃとも。
そして何より短所以上に長所をしっかりと見ればあまり気にならないと思った。
現に優希くんは優しくて穏やかで、それがたまに行きすぎて過保護になるけどあまり気にならない。
「短所も受け入れるって、優愛って本当に優希くんのこと好きなんだね。なんか微笑ましいな」
穏やかな笑顔で朱音ちゃんが私のことを見つめてくる。羨ましいとか言いながらも祝福してくれて居るのかなと私は少し嬉しくなった。
お弁当を食べながら話しているとあっという間に時間は過ぎていたようで授業開始5分前の予鈴が鳴った。鳴り始めると皆次の授業の準備に動き始めて、私たちも流れに従ってお弁当を片付け、準備をする。
「話ここまでだね。また放課後にでも続き聞かせて。優愛と優希くんの話聞きたいな」
そう言われながら私は自分の席に戻った。私と優希くんのことと言われてもあまり話すことはないのだけれど。
周りがバタバタ動いてる空気感につられて聞きたいと言われた返事を返さないまま授業が始まり、お昼休みの話は終わった。
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