第6話 親友と3人で
「あ、やまちゃん、どこ行ってたんだよ〜!」
俺は、優愛を教室送り届けてから、自分の教室に戻った。教室に入ってすぐ、やっと見つけたとでも言わんばかりにしょうとまもっちゃんが寄ってきた。
『しょう』と俺が呼んでいるのは
俺に今声をかけた『まもっちゃん』は赤点ギリギリにいつもいる
俺の事を『やまちゃん』と呼ぶのはこの2人だけである。
どちらも大切な俺の親友だ。
「やまちゃん、教科書借りに行くってどこまで行ってたんだよ」
「家行ってきた方が早かったんじゃね?」
まもっちゃんもしょうも笑いながら聞いてくる。
「あ・・・いや。色々あったんだよ」
全て事細やかに説明するのが面倒くさくて『色々』と言う言葉でまとめた。でも、それがいけなかった。
「まさか、彼女ちゃんとイチャイチャですか?」
まもっちゃん、なぜそうなる。
「そういや、今日保健の先生居なかったよな?」
しょう、余計な情報まもっちゃんに教えんな。
「あ!可愛い彼女ちゃんと保健室で・・・!」
あらぬ方向に話が進む。
保健室に今日は先生居なかったのか。だったら寒い屋上なんかじゃ無くて保健室に行けば良かった。保健室ならふかふかベッドもあるし優愛だってお昼寝できたかもしれない。
行けば良かったと思うけど実際は違う。俺の反論はしょうとまもっちゃんの耳には届かず、話が盛り上がっていく。どうやらしょうとまもっちゃんの中では俺が保健室に行ってたことは既に事実として語られているようだ。
「先生に見つかんなかったのか?」
「保健室で実際ヤるやつなんて居るんだな。流石俺らのやまちゃん。度胸ある~!」
流石俺らのまもっちゃん。話が飛躍しすぎだ。
「だ・か・ら!してない!確かに彼女と居たけど!居たのは屋上だし、ひなたぼっこしながら、まったりしてただけ!」
しょうもまもっちゃんも全然信じてくれない。弁解もほとんど効果が無かったけど、しないよりはマシだ。
今度は面倒くさがらずさっきの休み時間にあったことをかいつまんで話す。俺が真剣に話したからか、結局親友だからか話し終わる頃には2人とも信じてくれた。
「でも、そういうのしたいとか思わないの?」
しょうが聞いてきた。
「いや・・・元々あいつとはしたこと無いから。保健室でソワソワしながらとか勿体ないだろ」
「は?したこと無いの?慎重だなあ~」
「彼女さんと付き合って半年以上、だよな?なんか、中学生のピュアな恋みたいだな」
どうやら、しょうもからかいスイッチがまもっちゃん並に入ってしまったようだ。こうなると手がつけれない。
俺だっていつまでも中学生をやっているつもりは無い。むしろ高校3年の健全な男子であり、少し先を急ぎたいくらい。
でも、急いだところで何も得は無いことを知っているから俺はもう少しだけ待ってみようと思っていた。
気づけばそう思い始めてからもう数ヶ月だが今の様子じゃもう少し後になりそう。
優愛とのことをボケーっと考えながらしょうとまもっちゃんの言葉は右から左に流していたが、ふと我に返った。
「そうそう、古典の授業今日なにやった?」
進んだ範囲、次回の範囲を聞き出そうとした質問に返ってきたのは進まなかったという結果だった。
「先生、出席だけ取って帰っちゃったからさ~」
「あ、そうそう。しかも来た先生、
神津先生はメガネの度が合ってないのかだいたい手元しか見えてない。授業中も教科書か黒板か。生徒なんてまるで見ない。
「やまちゃんの分も返事しといたから。感謝しろよ?」
神津先生はこんなに簡単に誤魔化せるのか。
実際のところ本当に誤魔化せているのかつい疑問を持ってしまう。まあ、あの神津先生のことだ。きっと俺が思うよりずっと簡単に誤魔化せてしまうのだろう。
とりあえず、俺は授業が進んでないことに安堵を覚えた。
「で?自習中なんか面白いことあった?」
「んー、べっつに〜?」
俺らのクラスで自習中に何も無いなんてことはまず無い。隠してるしょうとまもっちゃんが二ヤついてることからも明確だ。しょうとまもっちゃんの目をじっくり見ながら問い詰める。
「いや・・・ね」
そこまで言ってまもっちゃんは笑い始めた。笑ってるまもっちゃんに見切りをつけて俺はしょうに目で訴える。
「えっと・・・」
しょうが俺の訴えをくみ取ってくれたのか口を開く。
自習だと分かった後から男子一部が卒業旅行について話しだしたそうだ。友達同士の旅行のことだったから話し合い自体はこぢんまりしたものだったけど周りに漏れ聞こえる中で愛知について話し合ってる人の中でひと騒動あったようだ。
「愛知はどこにあるのかで揉めちゃって。1人は近畿だって言うし、四国だろ、中国だろって・・・。端から見ると面白くって」
「揉めるも何も四国に決まってんのにな!」
未だ爆笑しながらまもっちゃんが口を挟んでくる。
「いや。愛知は中部地方な?まもっちゃんは愛媛と間違えてないか?」
俺は冷静に教えてあげたけどまもっちゃんは俺の一言でより日本地図がごちゃごちゃになってしまった様だった。
「やまちゃんも居たら面白いところ見れたのに・・・」
もう、過ぎたことだ。優愛と居た1時間も幸せだったから見れなくたって後悔はない。
ふと時計に目をやる。話していたら時間はあっという間に進んでいた。あと4分。
「もうそろそろ移動しなきゃまずくね?次、何だっけ」
「あ、本当だ」
「次は···確か地理じゃなかったか?」
「あの先生苦手なんだよなぁ」
まもっちゃんが気だるげにロッカーから飛び降りる。冬のロッカーは冷たいはずなのにまもっちゃんのおしりの下だけすっかりほかほかになっていた。
俺は自分のロッカーを開けると奥から地理の教科書やら資料集を取り出す。取り出すのが乱雑だったせいで今まで配られたプリントが足元に散らばった。プリントを急いでかき集める。
すっかり集め終わった頃、守がまるで廊下にまで響くような声をあげる。聞くと前回寝ていてノートが真っ白だったようだ。俺の周りには寝て泣く奴か、けろっとノートを借りることすら忘れる奴の両極端しか居ないようだ。
「やまちゃん!授業終わったら2日分見せて!頼む!」
「なんでだよ!」
「あ、じゃあ、しょう!頼むよ~」
だから何で2日分なのか。前回の1回分とあと1回はどこだろう。前々回は見せて写させた。その時に他に抜けてる授業は無いか母のように確認したから、思い当たる授業がまるで無い。俺が確認できていないところがあっただろうか。
「いや、前回の授業聞いてないしノートも無いのに聞いたってしょうが無いでしょ。寝るよ?」
当たり前に宣言するまもっちゃんは怪物か。そこまでの余裕を持てるのも一種の才能なのだろう。
「ノートが無くても聞いてりゃ分かるよ。寝ないで今日の分くらい真面目にノートとれ」
俺としょうと協力して前回のノートを見せる条件として今日のノートをちゃんと取ると約束させた。じゃなきゃまもっちゃんが他力本願思考に陥るのが目に見える。
そういえば、これから地理だ。あと1分。しょうとまもっちゃんにも声をかけると流れ流され、3人で社会科教室まで競争することになった。もちろん、これを提案したのはまもっちゃんだ。
俺も教科書や筆箱をつかんで走り出す。先生が誰も通らなかったことが幸いだった。
階段でまもっちゃんが見えなくなり、それを追うようにしょうをおいて走った。あと30秒。
ちょうど俺が社会科教室に入ったところでチャイムが鳴り始めた。全力疾走で息をあげているまもっちゃんに釘を刺して席に着く。
しょうも少し遅れて入って来たけどこっそり何事も無かったように席に着く感じ、だいぶやり手の臭いを感じた。
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