第3話 お昼休みの図書室

 毎週木曜日、私は図書委員会の当番活動でお昼休みに図書室に通っている。

 本の貸し出しの管理をしたり、返ってきた本を元の棚に戻す業務をこなしてお昼休みを過ごしていた。

 しかし、お昼休みは皆教室や屋上で仲の良い子とお昼を食べながら話に花を咲かせていてあまり人が来ないし、来たとしても受験生が落ち着ける自習環境を求めてやってくるだけだからあまり忙しくもなかった。


 今日も昨日の放課後から今日のお昼前までに返された本を棚に戻しながらのんびりと過ごしていたが、いつもとは違い優希くんが遊びに来た。

「あ、優愛今日図書委員の当番だったっけ?」

「うん。優希くんが図書室来るなんて珍しいね」

「たまには良いかなぁって。教室より静かで落ち着くし」

 この間の優希くんの家でのこともあり2人の間に変な間が生まれる。

「その・・・この間はごめん。急にその…キスしたりなんかして。やっぱり付き合っててもされたくないことはあると思うし。ああいうの、良くなかったなって思った」

「ううん、私こそ拒絶したみたいになっちゃってごめんね。決して優希くんのことが嫌いとかそういうんじゃ無いから」

「嫌いじゃないのは分かってるし、謝らなくて良いよ。俺も今度からもっと気をつけるからまた何か嫌なこととかあったら言ってな?」

「うん、わかった」

 優希くんは私の手の中に残った棚に戻す本に気づいたようで手を伸ばしてきた。

「この本、全部上の方みたいだけど良かったら入れてあげようか」

「あ・・・うん。お願い」

 優希くんは私の手から本を数冊ずつとって棚に戻していった。作者の名前を見て50音順にちゃんと並べてくれたのが凄く助かった。私が脚立を使ってやっと届く棚に軽々本を戻していくから時間短縮になったし優希くんがいつもの何倍にもカッコよく見える。

 優希くんが全て戻してくれたからいつもはお昼休みの間中働いているのに思わぬ余裕が出来た。とりあえずという様に貸し出しカウンターに戻り優希くんとカウンターを挟んで向い合う。

「これならチビな優愛でも出来そうだな」

 そう言って笑う優希くんにムカッと来て怒るが優希くんには軽くあしらわれてしまった。

「何でそんなに興味なさげなの?こっちは割と本気で気にしてるんだからね!」

「ごめんごめん。でも、からかったりするけど優愛の小さいとこ好きだよ。守ってやりたいな~って思う」

「そんなの思ってないでしょ!ただからかって遊んでるだけじゃないの?」

「違うって。でも、まあ。もう少し太っても良いかもしれないな。今は細すぎていつか折れちゃうんじゃないかって心配だから」

 私だって、もう少しくらい大きくなりたい。でも年齢的に身長は止まってるし、横にだって食べても食べても太れない。これを周りの女子に言ったら絶対睨まれるだろうと分かっているけどこれが真実だ。優希くんと居るときは笑われて、ちょっと呆れられるくらい食べるけどそこで摂ったエネルギーもいつの間にかどこかへ行ってしまう。

「優愛、今日のお昼ご飯は何だった?」

「お弁当だけど・・・。図書委員の当番だったしゆっくりは食べれなくて、まだ残ってる」

「大丈夫か?それで」

「大丈夫。放課後ちゃんと残り食べるから」

「あのさ・・・」

 優希くんが何か言いかけたところに本を二冊持って生徒が来た。ちゃんと話したことはなくて貸し出しの手続きの中で学年とクラス、名前を知った顔見知りさんだった。1年4組の橋爪尚人はしづめなおとくん。クラスは橋爪くんにとって、とてもうるさいらしくほとんど毎日図書室に通って週に2回、月曜日と木曜日は本を借り直すのだと毎日この図書室の利用者のことを観察してる司書の先生が言っていた。今日も必要最低限の会話で手続きを終えていつも通り何一つ変わったこと無く関わりが終了した。

「あの人常連さんなの?」

「うん。なんで?」

「貸し出し凄いスムーズだったから。手続きするのにクラスも名前も聞かないでよく出来るなって」

「毎週本2冊持ってくるから。毎週同じこと聞いてれば流石に覚えられる。まあ、学年とクラスと名前しか知らないんだけど」

 正直私の毎週木曜日の受付業務は橋爪くんの為にあるようなものだ。他に借りる人は滅多に来ないし、今日も来る気配が無かったから優希くんとお喋りすることにした。

「で、さっきの続き。俺はお前が心配だからちゃんと食べて欲しいんだよ」

「たくさん食べてるじゃん。逆に優希くんに引かれてないか心配」

「大丈夫だよ!俺はたくさん食べる子好きだから」

「ほんとに?デート行ったときとかたくさん食べたあげくに払わせてるのに」

「何?今日は不安な日なの?大丈夫だよ。優愛には満足して欲しくて俺が自分の意思で払ってることだから。嫌いになんてならない!」



 私が不安になっちゃっているところをこの後も少し優希くんに慰めてもらった。そのうち落ち着いてきて優希くんに満面の笑顔を見せたところで可愛いとでも言う様に頭を撫でられた。急なことでボディータッチにも抵抗があるからつい悲鳴のようなものが出てしまう。

「あ、ごめんね。何かあった?」

「うん?いや・・・。虫が、居た」

「あ、そっか。虫怖い?大丈夫?」

「うん。もう平気」

「良かった良かった」

 優希くんはもう平気だと知って安心したようにまた頭を撫でてくれた。今度は悲鳴を上げないようにと耐えていたけど怖さから少し身体が震えてしまった。

「…大丈夫か?」

「何が?」

「いや、震えてるじゃん」

「…ううん、ちょっと寒いだけ。大丈夫だよ」

 もううまく誤魔化せそうにない。

「…わかった。今は寒かったってことにしとくけど何かあればすぐ言って欲しいし、本当は隠し事して欲しくない」

 そう言って優希くんは気を利かせて話題を変えてくれた。

「次の授業何?」

「私は日本史」

「お昼の後の日本史かー。寝ないようにね」

「それは優希くんもだよ。寝ないように。それで、優希くんは次何の授業?」

「俺?確か化学だったかな。化学講義室寒いから寝ようにも寝れないから大丈夫だよ」

 化学講義室は寒いと言う優希くんを見て私はいつも使ってるブランケットを貸すことを提案した。

「大丈夫だよ。優愛だって使うでしょ?」

「ううん。日本史の教室暖かいから優希くんが使っても平気だよ」

「でも・・・」

「でも?」

 優希くんは少し詰まった後、男子は基本ブランケットを使わない、そもそもブランケットの柄が女物などの理由から恥ずかしいと話してくれた。

 私からすると凍えて1時間過ごして欲しくないし、それによって風邪を引かれるのはもっと嫌だ。

 2人で話し合って柄が見えないように裏返して使って優希くんの友達が何か誤解したら私も一緒に誤解を解くことになった。優希くんも寒さには勝てない面があったようだった。

「私の教室の机から勝手に持ってっても良いけどどうする?」

「良い、待ってるから。予鈴鳴れば仕事終わりでしょ?予鈴鳴るまでくらいなら待ってる」

「ありがと。じゃあ、鳴ったらすぐに帰れるようにもう片付けの準備しておくね」

 まだ時間はあるけど私は片付けを始める。優希くんも悪い子だとからかいながら手は片付けを手伝ってくれて予鈴が鳴ると同時に私たちは図書室を後にした。

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