第2話 彼氏の家で勉強
今朝起きたらうっすらと雪が積もっていた。
夕方になった今でも降った雪が氷となって人々に影響してる。俺の家の近所の小学生はスケートごっこをして、すれ違うご婦人は歩きにくそうに慎重になっている。
──そして俺の隣に居る優愛はさっき転びかけた。今日は俺も優愛もバイトが休みだったから家に招待して一緒に帰っていたし、すぐに助けることが出来て良かったと心の底で思う。優愛が俺の家に来るのは今回が初めてではないけど、俺の住む所は住宅街でごちゃごちゃしているから優愛はまだ俺の案内が必要なようだった。
「ほら、着いた。ここだよ」
教えてあげると優愛は前にも見たことある建物だと言わんばかりに頬を緩ませた。
「寒いだろ?中入って」
「お邪魔します」
「俺の部屋、暖かくなってるはずだから先行ってて。家の中は分かるよな?」
「うん、分かるけど···」
「俺、ジュースとお菓子持ったらすぐ行くから」
台所に入り、冷蔵庫を開けるとオレンジジュースとコーラが入っていた。優愛がコーラとは想像しにくくてオレンジジュースをコップに注いだ。俺の分もお揃いでオレンジジュースを注いで2つのコップとお菓子の袋をお盆にのせて台所を出る。玄関から続く廊下に出ると居るはずのない優愛の姿があった。
「あれ?まだ部屋行ってなかったの?」
「何か先に行ってるの抵抗あって・・・」
「こんなところに居たら寒いだろ?」
俺が部屋に向かうとすぐ後ろを優愛がついてきた。その様子が犬とか、鶏の後ろを歩くひよこみたいで思わず笑いそうになる。
「どうしたの?」
「え?」
「笑うの我慢してる?肩震えてるよ・・・」
気づけば手元のオレンジジュースがこぼれそうに揺れている。
「ごめん。俺の後ろぴったり着いてくる優愛が可愛くって」
優愛は少し怒ったように頬を膨らませたが、それと同時に照れたのか何も言わなくなった。
部屋に入ってクッションを用意しその前にオレンジジュースを置いてあげた。
「寒いかな?良かったら毛布も貸すけど」
「ううん、平気」
「そう、また寒かったら言ってね」
俺も優愛の横に座ってお菓子の袋を開ける。袋の中からお菓子を1つ摘まんで口に運ぶ。親が買ってきたお菓子で俺は食べたことがなかったから未知の世界だったけど食べてみるとめちゃくちゃ美味しかった。
優愛にも紹介してせっかくだからと『あーん』してあげようとしたら恥ずかしいからと断られてしまった。優愛もあとから自分で食べて美味しいと満足そうにした。
「気に入ったなら遠慮しないで食べて」
そう言って袋を優愛の前に置いてあげるが、やっぱり優愛はどこか遠慮してるようであまり手が進んでいなかった。
「さ、そろそろ勉強しようか」
「そうだね」
「英語からする?」
2人で英語の課題に手をつけるが、俺は分からなくてすぐに手が止まってしまった。受験も苦手な英語を他教科でカバーしていたし、気持ち的にも俺は英語は無理だと半ば諦めの気持ちが生まれてしまっている。
それに比べて優愛は比較的ちゃんとペンが動いていた。本人曰く得意科目では無いらしいが俺よりもずっと出来は良いみたいだった。
俺はしばらく出来ない英語の課題を見つめ、潔く諦めることにした。優愛は相変わらず英語をやっていたが俺は路線変更して数学に取りかかる。
「優希くん、数学始めたらスラスラとペンが動くね」
「それは、数学は英語と違って呪文じゃ無いから」
「英語だって呪文では無いと思うけど・・・」
「じゃあ!異国の言葉は俺には無理!習っても分からん!」
分からないと宣言する俺を前に優愛は可笑しそうに笑った。優愛の手元を見るともうほとんど解き終わっていた。
「え!?優愛ほとんど終わってるじゃん。すげー!」
「良かったら見る?」
「うん!後で写させて。すげー助かるわ!」
「その代わり数学見せてね」
数学と英語で取引を交わしながらさりげなく距離を詰める。
「俺勉強飽きた~」
「終わったの?」
「終わってないけど・・・。疲れたし、飽きたからお喋りしたい」
「何話すの?」
「え?今日どうだった~?とか、今後どうするかとか」
高校を卒業すれば離れ離れになる。大学も違うしきっと今みたいに毎日顔を合わせることも難しくなるから結果的にどうなるにしても一度きちんと2人で話し合いたい話題ではあった。
「あと数ヶ月後には学校もバラバラ、電車でちょっと頑張れば会えるかもだけどスケジュールもバラバラになるんだから今まで通りは無理だよ。付き合い続けるとしても付き合い方を変えないといけないと思う」
「うん・・・」
「俺はこれから大学に行っても優愛と付き合い続けたいって思ってるけど・・・。優愛は?」
「これからも、一緒に居たい・・・」
何だか言葉を選んでいるようにも見えたが優愛は意志を固めたように力強く宣言してくれた。一緒とはいえなかなか顔を合わせられ無くなるだろう。
それでも出来るだけ心は近いままでありたいと思った。例えば週に1回は予定を合わせて会うとか、お互いの中間地点の駅で少しでも顔を合わすとか・・・。
「今までみたいにいかなくてもさ、夜とか寂しいときに優希くんの声聴きたい。電話で良いから」
「電話だけで良い?」
「電話だけじゃやだ。たまにでも良いから会いたい!」
「うん、分かってるよ」
俺は可愛いことを言う優愛に優しく笑顔を向けながらたまにでも会うことを約束した。俺的には楽しそうに笑う優愛もすぐ照れる優愛も全て大好きだから例え距離が離れようと心は優愛とずっと一緒に居たい。
俺は愛おしさを抑えきれなくなって優愛の頭をそっとなでた。優愛はまた照れたのかうつむいてしまったけどきっと心では喜んでくれているだろう。
ふと窓を見ると外が暗くなり始めていた。優愛の家は遠いから早く帰らせないと家に着くのが本当に真っ暗になった後になってしまう。
「優愛、もう外暗くなってるよ。帰った方がよくね?」
「え~、もう帰らなきゃダメ?」
「女の子が夜遅くに出歩くのは危ない。だから帰ろ?」
「もうちょっと一緒に居たい」
「わがまま言わない。俺が優愛の家まで送ってやるから」
優愛は帰らなきゃいけないことが不満という顔をしながらなぜか俺が送ることは断った。もう暗くなり始めているから心配でもう一度俺が送ることを提案したけど優愛は断固拒否という感じだ。
「じゃあ、家までは送らないけど玄関まで送るね」
「ありがと」
「優愛が帰る前にさ、1個だけしたいことがあるんでけど良い?」
そう断りを入れた後、俺は優愛に目を瞑らせて唇にキスをした。俺の予想では多少照れて顔を見せてくれなくなるくらいだろうと思っていたが、優愛は俺の予想に反して俺のことを押しのけた。
「やめて!」
そう叫んだ優愛だったけどすぐに我に返ったのか彼氏である俺を押しのけたことを謝ってきた。
「いや・・・だったかな。優愛が謝ることじゃ無いよ。むしろ俺の行動が軽率すぎた。ごめんな。・・・もう、嫌がることしないから。気をつけて帰れよ」
玄関まで見送って何かあったらすぐに連絡することを約束させたが、2人の間に流れる空気は気まずい感じのまま優愛は帰って行った。
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