韋孝寛㉑斛律光を(政治的な意味で)ハメ殺しました。

▼斛律光と汾水の東で会見して言い合いをしました。


さて、

韋孝寛がロックオンした斛律光ですが、

ノンケにも、ではなくノンキにも

汾水の東岸まで来て韋孝寛に会見を

申し込んで来ました。



『周書』韋孝寬伝

其丞相斛律明月至汾東,

請與孝寬相見。


 其の丞相の斛律明月は汾東に至り、

 孝寬と相い見えるを請う。



アッー、ではなく、危うし斛律光?


そんなわけもなく、

会見は穏やかに終始しますが、

緊張が走る遣り取りがありました。



『周書』韋孝寬伝

明月云:

「宜陽小城,久勞戰爭。

今既入彼,欲於汾北取償,

幸勿怪也。」


 明月は云えらく、

「宜陽は小城なるも久しく戰爭を勞せり。

 今既に彼に入り、汾北に償いを取らんと欲す。

 怪むことなかれば幸いなり」と。



斛律明月=斛律光はこう言いました。

 宜陽は小城ながら久しく両国が争ってきた。

 今や宜陽は貴国の領地となったのだから、

 吾らは代わりに汾水北岸の地を頂いたのだ。

 誤解されるな。


つまり、

宜陽は譲ったんだから、

汾水北岸は寄越しなよ

ってオハナシですね。


ちなみに、

「幸勿怪」は「勿怪の幸い」に関係あるかな、

と疑って語源を調べてみたのですけど、

関係ないみたいですね。


汾水北岸の危険を察知していた韋孝寛、

この言い草がカチンと来たようで、

けっこうマジレスをお返ししています。

長広舌をおそらく早口でまくし立てた。



『周書』韋孝寬伝

孝寬答曰:

「宜陽彼之要衝,汾北我之所棄。

我棄彼圖,

取償安在?

且君輔翼幼主,位重望隆,

理宜調陰陽,撫百姓,

焉用極武窮兵,搆怨連禍!

且滄、瀛大水,千里無烟,

復欲使汾、晉之間,

橫屍暴骨?

苟貪尋常之地,

塗炭疲弊之人,

竊為君不取。」


 孝寬は答えて曰わく、

「宜陽は彼の要衝、汾北は我の棄つる所なり。

 我は棄て彼は圖る、

 償を取るは安くにか在らんや?

 且つ君は幼主を輔翼して位は重く望は隆し、

 理に宜しく陰陽を調えて百姓を撫すべし。

 焉んぞ極武窮兵を用って

 怨を搆え禍を連ねん!

 且つ、滄瀛は大水ありて、千里に烟なし。

 復た汾、晉之間をして

 屍を橫たえ骨を暴さしめんと欲するや?

 苟くも尋常の地を貪り、

 炭を疲弊の人に塗るは,

 竊かに君が為に取らざるなり」と。



超高速ネイティブ関西弁でお送りします。


 宜陽はアンタんとこの要衝、

 汾水北岸はウチの捨てた土地や。

 ウチが捨ててアンタが取った、

 代わりもへったくれもあらへんわ。

 しかしまあ、

 アンタはちっちゃい皇帝を助けて

 位も人望もあんねんから、

 もっと大局に立たんとアカンちゃいます?

 戦ばっかして怨みを買うてばっかりやん。

 聞いた話やと、海沿いの州は洪水で、

 千里行っても人の気配がない言うで。

 ほんでまた、

 山西でも人の死体を並べるつもりかいな。

 ただの土地を欲しがって人を苦しめたら

 アカンのんちゃいますか。 


あまり詳しく解説はしませんけど、

まあ負け惜しみですよね。


顔を真っ赤にして反論したんでしょう。




▼コンプライアンスガバガバの齊に付けこんで斛律光を(政治的な意味で)ハメました。


さて、

汾東で斛律光に負け惜しみで反論した韋孝寛

泣きながらかは知りませんが玉壁に帰ります。


そして、

怨みを原動力にして謀略を練り上げます。


スタンドならエボニー・デビルですね。

知らない?ご冗談を。



『周書』韋孝寬伝

孝寬參軍曲巖頗知卜筮,

謂孝寬曰:

「來年,東朝必大相殺戮。」


 孝寬の參軍の曲巖は頗る卜筮を知り、

 孝寬に謂いて曰わく、

 「來年、東朝は必ず大いに相い殺戮せん」

 と。



韋孝寛の参軍、つまり部局の長の一人に

曲巌きょくがんという人がいました。


胡散臭いことに、占いが得意だったそう。


その曲巌が韋孝寛に言いました。

「来年は齊で粛清の嵐が吹きまっせ」


それを聞いた韋孝寛が、


ニチャア


と哂ったであろうことは確実です。


この機にキケンな斛律光を消してやろう。

そう堅く決心したことでしょう。



『周書』韋孝寬伝

孝寬因令巖作謠歌

曰:

「百升飛上天,

明月照長安。」

百升,斛也。

又言:「高山不摧自崩,槲樹不扶自豎。」

令諜人多齎此文,遺之於鄴。


 孝寬は因りて巖をして謠歌を作さしめて

 曰わく、

「百升は飛びて天に上り、

 明月は長安を照らす」と。

 百升は斛なり。

 又た言えらく、

「高山は摧さずして自ら崩れ、

 槲樹は扶けずして自ら豎たん」と。

 諜人をして多く此文を齎らしめ、

 之を鄴に遺る。



二チャッと哂った韋孝寛は

曲巌に歌謡を作らせます。


 百升は飛びて天に上り、

 明月は長安を照らす


意味不明ですね。


百升は一斛にあたります。

つまり、

「斛は飛んで天に上る」となり、

斛律氏が帝位に即くことを

予言するような一文です。


さらに、

明月は斛律光の字、

長安は周の都ですから、

周に通じていると暗示します。


次の一連、

 高山は摧さずして自ら崩れ、

 槲樹は扶けずして自ら豎たん


高山は齊の皇室である高氏を指し、

それが自ら崩れると言ってます。


槲樹こくじゅの音は斛律氏の斛に通じ、

そうなったら斛律光は高氏を助けたりせず、

自立しちゃうよ、と言う意味に解せます。


ニチャア。


あとは、この捏造した歌謡を

軍部の拠点である晋陽ではなく、

政治の中心である鄴に撒くだけ。


鄴にある齊帝は斛律光を疑わずにいられます

かねえええええええええええええええええ。


暗い暗い喜びに満ちた韋孝寛でした。



『周書』韋孝寬伝

祖孝徵既聞,更潤色之,

明月竟以此誅。


 祖孝徵は既に聞きて更に之を潤色し、

 明月は竟に此を以て誅さる。



当時、

軍部に対する漢人士大夫の中心は、

玉壁で口ゲンカをした祖孝徴でした。


懐かしいですね。

みんな忘れているでしょうけど。


齊の鮮卑武人と漢人士大夫の争いは、

周に比して激烈でした。


隙があれば陥れるのが上策です。


祖孝徴もごたぶんに漏れず、

韋孝寛の間諜がばら撒いた歌謡を聞き、

さらに潤色して追い落としを図ります。


その結果、韋孝寛の謀略は

齊の漢人士大夫

鮮卑武人

の争いに組み込まれ、

結果として、

斛律光の誅殺という事件を引き起こします。


韋孝寛は斛律光の死を聞いて、

満足げに

ニチャアと哂ったことでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る