韋孝寛⑳かつて鎮守していた宜陽がまた問題になるとは思いませんでした。
▼保定四年の出兵の余波で宜陽が囲まれましたが、見捨てることにしました。
『周書』韋孝寬伝
既而大軍果不利。
後孔城遂陷,宜陽被圍。
既にして大軍は果たして利あらず。
後に孔城は遂に陷り、宜陽は圍を被むる。
韋孝寛の反対を無視して行われた出兵ですが、
今回は洛陽に狙いを定めておりました。
西魏と東魏の頃も戦をした邙山で再び戦い、
北周はまたも北齊に破れてしまいます。
あらあら。
けっこうな敗戦を喫したわけですが、
北周はあの頃の西魏とは異なります。
宇文泰の在世中に蜀を版図に加えており、
国力では北齊にも引けをとりません。
そこまでではないにしても、往時に比して
よほど国力は増していたのです。
なので、
関中に攻め込まれる醜態はありません。
ただ、
最前線の宜陽が再びヤバくなります。
『周書』韋孝寬伝
孝寬乃謂其將帥曰:
「宜陽一城之地,未能損益。
然兩國爭之,
勞師數載。
彼多君子,寧乏謀猷。
若棄崤東,來圖汾北,
我之疆界,必見侵擾。
今宜於華谷及長秋速築城,
以杜賊志。
脫其先我,
圖之實難。」
於是畫地形,具陳其狀。
孝寬は乃ち其の將帥に謂いて曰わく、
「宜陽は一城の地にして未だ能く損益せず。
然れども兩國は之を爭い、
師を勞すこと數載なり。
彼は君子多く、寧んぞ謀猷に乏しからん。
若し崤東を棄て、來りて汾北を圖らば、
我の疆界は必ず侵擾されん。
今宜しく華谷及び長秋に速かに城を築き、
以て賊の志を杜ぐべし。
脫し其れ我に先んじられれば、
之を圖るは實に難し」と。
是に地形を畫し、具に其の狀を陳ぶ。
宜陽は、王思政の下にあった頃、
韋孝寛が鎮守していた思い出の地です。
洛陽の南西にあります。
ここから玉壁に赴任し、
数年の雍州刺史を間に挟んで
今もまだ玉壁に鎮守しています。
宜陽が包囲されたと知った韋孝寛ですが、
けっこう冷淡にかつての鎮所を評します。
宜陽を奪いあっているけど、
今やそれほど重要でもない。
むしろ、汾水の北の方がヤバイ。
そう考えた韋孝寛は、
汾水北岸の華谷と長秋に築城して齊軍の
侵攻に備えるよう、長安に意見しました。
ご丁寧にも、地図まで付したようですね。
▼宇文護は意見を聞かず、けっこう面倒なことになりそうです。
さて、韋孝寛の使者を迎え、
忙しかったのか、
コーマンチキになったのか、
宇文護は長史の
応対させました。
『周書』韋孝寬伝
晉公護令長史叱羅協
謂使人曰:
「韋公子孫雖多,數不滿百。
汾北築城,
遣誰固守?」
事遂不行。
晉公護は長史の叱羅協をして
使人に謂わしめて曰わく、
「韋公の子孫は多しと雖も數は百に滿たず。
汾北に城を築くに、
誰を遣りて固守せしめんや?」と。
事は遂に行われず。
叱羅協が伝えた宇文護の言葉は、
次のようなものでした。
韋公の子孫は多いけど100人はいない。
汾水北岸に城を築いたとして、
誰を鎮守させるつもり?
筋が通っているようでいない回答ですね。
要するに、
やる気がなかったわけですよ。
あるいは、
軍事に疎い宇文護には韋孝寛の具申の
意味も理解できなかったかも知れません。
さすがにそんなことはないかな。
いやあ、疑わしいなあ。
▼六年後、斛律明月=斛律光にガッツリ付けこまれました。
宇文護に意見具申を無視された後6年後、
天和五年(570)に話が跳びます。
韋孝寛は鄖国公に封じられ、
食邑は一万戸となりました。
『周書』韋孝寬伝
天和五年,進爵鄖國公,
增邑通前一萬戶。
天和五年、爵を鄖國公に進められ、
邑を增して通前一萬戶たり。
それだけの税収が実入りになるわけで、
まあよかったねなのですが。
先に宜陽が包囲されたと聞いたとき、
彼は君子多く、
寧んぞ謀猷に乏しからん。
齊国にも知者はいる。
計略に乏しいわけもあるまい。
と韋孝寛は懸念していました。
それが誰を想定していたかは不明ですが、
北齊軍部の重鎮である
キッチリ付けこんできました。
『周書』韋孝寬伝
是歲,齊人果解宜陽之圍,
經略汾北,遂築城守之。
是の歲、齊人は果たして宜陽の圍を解き、
汾北を經略し、遂に城を築きて之を守る。
先に懸念していたとおり、
齊軍は宜陽を捨てて汾水北岸を経略、
築城して河東の周軍に備えたわけです。
しかし、
六年も後にやるとは思いませんでした。
韋孝寛としては、してやられた感アリアリ。
その一方、
齊の斛律光がキケンと考え始めたことは、
疑いないところかと思います。
そして、
韋孝寛は危険人物を放置しておきません。
何しろ、玉壁にあって齊の情報を収集し、
調略を行うのがその任務ですからね。
ロックオンせざるを得ません。
久々に
ドス黒い陰謀家の顔が表れることは
避けられないところでもありました。
ニチャア。
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