期末試験

 本格的な夏の暑さが名古屋の街を襲う。名古屋の夏は暑く、温度計が四十度を示すことも珍しくない。

 全学教育棟はサウナと化していた。熱気のこもる部屋に生徒の汗が滴る。全学教育棟の冷房の権限は全て事務が握っており、愚かにも節電の名目で、決められた時間に冷房が停止されるのだ。


 大学は期末試験の時期だ。七月の終わりから八月の初めにかけて、三週間にわたり試験や期末レポートの提出が行われる。三週間と聞くと物凄い感じがするが、普段から勉強していれば想像ほどは大変でない。何より授業が進まないのは最高だ。

 とはいうものの、やはり大量の試験の負担は大きく、私はまた化学実験を犠牲にしていた。

 最後の化学実験「無機定性」は三回分のレポートを最後にまとめて出す形式だった。諦め癖がつきはじめていた私は、もうこれは遅れて出せばいいだろうと真っ先にぶん投げた。加えてぎゃっとTも全く触れることはしなかった。リスニングを数百問などやっていられるわけがない。あんなものはブタのエサにでもしてしまえばいい。

 飽食ぎみの頭に毎日知識を詰め込んだ。一年後期が一番楽、という生協の文句が心の支えだった。こんなにキツいのは今期だけ、これが終われば普通の大学生になれる――。



 あがくうちに期末試験は終わった。学生たちは夏休みへとなだれ込んだ。私は残った化学実験のレポートのやる気が起きず、期限から二週間遅れてやっと提出した。



 後日、成績を確認したところ、解析学以外の単位はなんとか取れていた。

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