怪盗マサシ②
六月二十六日、火曜日。四限。解析学の講義で試験結果が返却された。見ると、0点だった。人生で初めての0点だった。
まったく予感がない訳ではなかった。講義からして怪しいニオイはした。講義は、証明を延々と垂れ流すのが主だった。試験前には参考問題が配布されたが、難しい上に解答がついていなかった。さらに、試験では数学的懐疑のある解答には部分点を与えない、と前もって明言されていた。あの時の怪盗マサシの輝いた目には、少し狂気的なものさえ感じた。
それでも、まさか0点だとは思わなかった。
少し勉強不足だったかもしれない。それでも、ほかのどの科目よりも勉強した。試験はなんだかんだ七割埋めたし、正解の自信もそれなりにあった。事実、模範解答と照らし合わせると、半分は答えがあっていた。
にもかかわらず0点ということは、私の解答は数学的に厳密でなかった、ということらしい。
怪盗マサシをちら、と見た。試験は非常に出来が悪かった、残念だ、という言葉とは裏腹にその眼は輝いていた。その眼光は一点の曇りも見逃さないようだった。
しばらくして試験の返却と訂正が終わると、授業が始まった。私はかばんから教科書も出さずに、呆然とスマホを眺め続けた。こういうとき、ツイッターがもってこいだった。ツイッターのタイムラインを見終えると、通知のないラインを開いた。それは至極つまらなかった。すぐに閉じて、またツイッターを開いた。タイムラインは何も更新されていなかった。変わらない画面を下に引っ張って、壊れた猿のように、何度も何度も更新した。
その日を最後に、解析学の授業に出席することは、もうなかった。こうして私ははじめて単位を落とした。
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