第二十六章⑤ 星空を征く

 ベブルは荒野を歩いていた。


 暗く、冷たく、湿った空気に包まれている。


 頭がずきずきと痛む。


 彼は身体じゅうに深い傷を負っていたが、どれも手当てされていなかった。


 それでも、彼は歩く。



 見渡す限り、荒れた大地が広がっていた。


 木はおろか、草の一本も見当たらない、荒涼とした死の大地だった。


 動物も、魔獣も、虫さえもどこにもいない。



 彼は砂と土を踏みしめながら、先へと進んでいた。


 村や集落らしいものは何も見えてこない。


 家一軒、小屋一軒見当たらない。


 他の旅人の足跡すら、どこにも無かった。


 まるで、この世界に彼ひとりしかいないかのように。


 暗い世界だった。



 この闇は、彼が好きだった闇とは違った。


 心のない、濁り切った闇。



 いまは夜だった。


 夜空には、雲ひとつない。



 彼は傷だらけのまま、酷く疲れたまま、たったひとりでその荒野を彷徨っていた。


 愛しい、恋人との約束を果たすために。



 ——その空には、ひとつも星がなかった。

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