第四章⑨ 手と手取り合い
ベブルたち三人は洞窟を外へ出ると、南に向かって歩いた。すると真夜中に、ボロネ村に到着した。
真夜中のボロネ村は皆が寝静まっており、外には誰もいなかった。
「なんだ、ここは本当に過去か? たいして何も変わったように見えんが」
ベブルは村の風景を見て、そう言った。それに対して、ウォーロウはこう言った。
「だが、昼間にここに来たときと違うことは確かだ。建物の位置がかなり違う。田舎な雰囲気はそのままだが」
フィナはつくり出した大犬の魔獣の背に乗っていた。彼女はどうやら、ずいぶん疲れたようだ。フィナもウォーロウも、持っている杖の先に光を付けていた。
「おうい、お前さんたち」
そう、誰かに呼び止められて、一向は立ち止まった。横道から、少し太った中年の男がやってくる。手には松明をもっている。彼はベブルたちに話し掛けた。
「こんなところで何してる」
「宿屋はどこだ」
ベブルはその男に訊いた。
「ああ、よそから来なすった人か。よう来たよう来た。宿はおらが案内する」
その男は愛想良くそう言うと、彼らの先に歩き出し、「こっち来い」と言った。ベブルは警戒されるかと思ったが、そうではなかったので、少し拍子抜けな気がした。三人はその男について歩いた。
もしかすると、時間移動なんてしていないのかもしれない。そう思ったベブルは、その男に訊いてみた。
「おい、ここはどういう時代だ?」
「はあ?」
もちろん、その男にとって、まったく意味不明な質問だった、ということは言うまでもない。
「ベブル、意味不明すぎだぞ」
ウォーロウがそう言った。ベブルは不満そうに彼を睨んだ。変わりに、彼がその男に質問する。
「最近、何か変わったことは?」
「んん」
その男は考え始め……しばらくして、話した。
「この地域の支配者の魔王さまと、南西地方の支配者デルンが、近々また争いをおっぱじめるそうでな。デルンはもともとこの地方の生まれじゃから、ここが自分のものにならんで魔王さまのものになっとるのが気に食わんのだろう」
その言葉に、三人は沈黙した。フィナとウォーロウは何か思い当たる節があったからだ。一方、ベブルはその言葉の重要性が理解できなかったために黙っていたのだった。
「魔王とデルンがともに生きている時代――僕らは約百二十年前にやって来たようですね」
ウォーロウは、彼の隣を歩くフィナに、そう小声で告げた。
「俺たちの時代の隣は百二十年前だった……ってことか。奴ら『未来人』は、この時代でも何かした、ってことだな。俺たちの時代にデルンが蘇ったのは。結局返り討ったが」
ベブルは腕を組んで歩いていた。
彼らの前を歩いている男は立ち止まり、一軒の建物を指差した。
「ここがおらが家だ」
「俺たちは宿を探してるんだ」
ベブルは強い語調で、その男にすぐ返した。
「おらが家に泊まってくがええ。この村にゃ宿屋はねえからの」
男はそう言い、自分の家の戸を開けた。
ウォーロウはフィナが乗っているディリムの方に近づいた。
「どうします?」
彼が訊くと、彼女はディリムから降り、大犬を消した。どうやらここに泊めてもらうつもりである。
「明日は明日の風が吹く、ってか。いいけどな、別に。今日はなんか食って、寝るとすっか」
そう、ベブルは声を高めにして言うと、両手を頭の上で組んだ。それからしばらくして、彼は考えた。今日、っていつだ?
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