(5) お願い
「もちろん、聞ける条件であれば聞くよ。これほど居心地がいいんだから。でも……」
「でも?」
「でも、レン太のような大富豪が、貧乏人のぼくに頼み事なんてあるのかな?」
おそらくぼくは、同級生のなかで最貧だと自覚していた。なにしろ大学を出たあと、就職もせずに日銭を稼ぐアルバイトしかしていないのだ。あとは原稿料がぽつぽつ。ほとんどのものが金で片が付くこの世の中で、レン太がぼくに頼ることなどほとんどないはずだった。
ぼくの頭にまず浮かんだのは、臓器売買だった。一人暮らし、生活費にすら困窮する貧乏人、20代中頃という体力の充実期、どれをとっても適任者だ。突拍子もない考えだとは思うが、いきなり車に乗せるという手荒なやり口を喰らうと、考えも過激なものになる。
そう考えれば、すべてつじつまが合う。ここに来て快適な生活をさせているのも、体を痛めつけないためのケアともとれる。どこだろう、腎臓か、肝臓か、目か……。
「聞ける条件じゃないかと、思っている」
レン太はニヤついたままだ。あんたは囲われの身で、すべての主導権はこちらにある。その歪んだ笑い顔がそう言っている。
「言ってほしいな、早いところ」
ぼくもニヤつき返す。しかしそれは引きつったもので、とても効果を発揮しているとは思えない。
「その前に、君の現在の状況を言わせてもらおう。君は昨日、仕事中に携帯をいじっていたことでアルバイトをクビになり、早急に次の働き場所を見つけようとしていた。今月末には、家賃40000円と携帯電話の支払いがある。経済的になかなか追い詰められた状況となっている」
ぼくは口がポカンと開いてしまった。なんなんだ、この男は! どうして自分のことを調べ上げていたんだ! ここまでやるなんて、やっぱり臓器売買なのか!!!
「おいっ」
レン太がうしろの黒服に声をかける。クッと首を折り、右側の男がぼくの横まで進んだ。
ぼくは緊張で全身を硬くさせた。首もすくむ。
黒服は内ポケットに手を入れる。なんだ、けん銃か!?
しかしちがった。万札だった。黒服は皿をどけると、ぼくの前に40000円と20000円を並べた。
「家賃と、携帯代だ。携帯料金は20000までいかないだろうけど、まぁおまけだ」
「こんなもの、レン太にははした金だろう。こんなんで言うことを聞かせるつもりか?」
「いやいや、そうじゃない。おれはね、君にお願いをしたいんだよ」
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