(6) 得意
「お願い?」
「そう。お願い」
レン太が、ニタッと笑う。
影のある笑いに感じ、やはり臓器売買なのかと、ぼくは背筋を凍らせた。
「君の得意なことを頼みたいんだ。だからそんなに警戒しなくていいよ」
「得意なこと?」
「そう」
再び、薄い笑い。
「得意なことって……」
ぼくは自分自身のことを考えた。ぼくの得意なことってなんだ? スポーツは苦手だし、金はないし、ないない尽くしだぞ!
「なにじっと考え込んでるんだ?」
怪訝な顔で、レン太が言う。
「いや、得意なことって……」
「分かんないのか!?」
レン太が目と目の間に大きくしわを作った。
「あぁ。分からない」
レン太が大きくため息をついて、天井を見上げた。
「じゃあ、青海川さん、きみはなにで収入を得ている?」
「えっ、スーパーの品出しのアルバ……」
「それはこの前クビになっただろう!」
かぶせるようにレン太が言う。
「そうだった……」
「じゃあ他になんの収入がある?」
「えっと、まぁ書いた物の印税がわずかばかり」
「それだよ!」
パン、とレン太が手を叩く。
「バカだなぁお前、書いたもので収入があるなら、得意だってことじゃないか!」
言われてみればそうだった。もう書くことが当たり前のことなので、得意だとかなんだとかという意識がなかったのだ。
「きみは書くことが得意なんだよ。まったく、なんでこちらが言わなくちゃいけないんだ!」
レン太に言われて、まぁそうだなと気が付いた。言われてみれば確かにそうだ。それにしても、バカだと思っていたレン太にバカだと言われたのがショックだった。それでぼくは、反論する気も、睨み返す気も、吹き飛んでしまった。
「まぁ、そうだな」
「本まで出してて、どうして気が付かないんだよ! 自分のことだろ!」
「う、うん……」
「いいか、こちらの頼みたいことは、きみに小説を書いてもらうことだ。せっかくきみを見込んで頼もうと思ったのに、大丈夫なのか? 書けんのか?」
「なにぃ!」
「あ~あ、不安だよ。こんなんで書けんのかよ?」
「なんだと! 書けんのかよ、だと!」
レン太の侮辱に、ぼくは思わず立ち上がった。
「レン太お前、何を頼みたいのか知らないが、なんだって書いてやるから言ってみろ!!」
ぼくの睨みつける眼に数瞬のあいだ息を詰まらせたレン太だが、次第に表情に笑みが戻っていった。
「なんだって、か。それはありがたい。じゃあひとつお願いするとしよう」
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