(4) 条件
大男2人はどちらも黒いスーツにサングラス。御曹司レン太の用心棒だろう。それにしても、ベタな姿かたちだ。
もしここで、ぼくがレン太の満足する答をしなかったとしたら……。
「彼らは?」
ぼくは薄く笑い続けるレン太に聞く。
「あぁ。わが社の社員だ」
「それが、どうしてここに?」
「彼らは配膳係で、きみの皿を下げに来たんだよ」
「そうか。じゃあ、さっさと運び出してもらいたいな」
「ここはぼくの家だから、きみに従う義理はないよ。彼らは彼らのペースで仕事をやるまでさ」
レン太は小ばかにしたように、手をひらひらと振る。
「ぼくをむりやり連れてきたくせに」
そうなのだ。ぼくは自分の意思でこの屋敷に来たわけではない。ここに来るまでの過程は、拉致された、と言ってまちがいのないものだった。
「ちょっと強引にお連れしたのは悪かったと思っている。しかし君はこの3日間、ご飯もしっかり食べて、風呂にも入って、ずいぶん遅寝までしてたじゃないか。それらリラックスした姿を見て、納得してくれたんだなと安心してたんだ」
「それは……」
たしかにバイトで疲れ切った体には、なにもかもが心地よかった。それで、いきなり豪邸に連れてこられて、訳が分からないまま、のんびりしてしまったのだ。
「まぁいいさ。君に何不自由なくすごしてもらうために、こちらがセッティングしたんだから。ところで質問に戻るけど、その君が残さず食べた食事を、今後も食べたいだろ?」
ぼくとレン太の目がじっと合っている。目が合う時間というのは、実際の時間よりも長く感じるものだ。今もそうだった。
「なんの条件もないのであれば、今後も食べたい」
ぼくは通常話す言葉よりも、ゆっくりと言った。
「風呂にも入りたいかい?」
ぼくは昨晩の風呂を思い浮かべた。それは例えると、がらがらにすいているときのスーパー銭湯だった。家の狭苦しいユニットバスとちがい、手足が伸ばせるのだ。凝った体が一気にほぐれたような気分だった。
「あぁ、同じく、なんの条件もないのであれば、また浸かりたい」
「あの布団で寝たいかい?」
布団もまた、印象に残るものだった。まったく重さを感じさせないのに、保温性が長けている。日頃の寝不足とも相まって、ぼくは10時間寝続けてしまった。
「それも同じだ。条件がないのであれば、今すぐにでも潜り込みたい」
その言葉に、レン太がうんうんと頷く。そして、
「じゃあ、条件があっても、それが聞ける条件だったらどうだろう?」
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