(3) 質問

 

 

 レン太は、ぼくのペンネームを言った。「青海川悠人」は、ぼく、田中和也のペンネームだった。

 

「どうしてそれを知った?」

 

 ぼくは聞く。

 

 しかしレン太は薄く笑い続けるばかりだ。

 

「どうしてそれ……」

 

 答えないレン太に苛立って聞き返したぼくを、レン太は手のひらを向けて制した。

 

「まぁまぁ。それより、こちらの質問が先だったんだから、まずは答えてほしいな、和也、じゃなかった、青海川さん」

 

「質問?」

 

「そう。この食事を、明日以降も続けたいかどうかだ」

 

 不気味な質問だった。食事を食いたいかどうかという、単純な意味なんかではないだろう。ぼくは即答を避け、じっとレン太の顔を見つめた。

 

 レン太は右手の人差し指でぽりぽりと鼻の頭を掻いている。その中指には大きな石の嵌る指輪。首には金のネックレス。その2つがときおり照明に反射し、ぼくの目にチカッと当たる。

 

 大富豪。小学生の頃から周囲にそう呼ばれていた。ケタ違いの大金持ちの子どもだとは、ぼくも知っていた。学校には、なにやらものものしい外国の車で通っていた。

 

「作家さん特有の深読みかな。まぁシンプルに考えてくれ。ここでの食事は美味いだろ?」

 

 ぼくは突然この屋敷に連れられてきた。無理矢理にだ。だから恐怖が先に立ち、初日の食事はあまり覚えていない。しかし少し気持ちが落ち着いたところで食べた2日目の食事は、とんでもなく美味に感じた。

 

「あぁ、美味かったよ」

 

「そうだろう。この食事を、続けたくないかい?」

 

「まぁ、続けたいと答えるのが当然だよな。でも……」

 

 と、ぼくはレン太を睨みつけた。

 

「鋭い視線のいい顔だ、青海川さん」

 

 からかい口調でレン太が言う。

 

「なにか条件があるんだろう?」

 

「さすが、作家の読み筋はなかなかのものだな。察しがいいよ。おいっ!」

 

 レン太は廊下に向かって声を張り上げた。

 

 扉が開き、少し間を置いて、力士のような体格の男が2人、入ってきた。これはどう考えても脅しとしか捉えられない。ぼくは力士たちとレン太を、交互に見た。

 

 


 

 

 

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