3 チョコと一緒に、思考もとろりと融けてゆく
なんとなんと、二年ぶりとなる更新です!(笑)
作者の私も、まさか続きを書くとは思っておりませんでした……っ!Σ( ゚Д゚)
なぜだか、とにかくあっまあまなシーンを書きたくてですね。バレンタインですし、ちょうどいい! ということで、勢いのままに書いてしまいました~!
二年前なんて、前の話なんて忘れたよ! という方は、一話と二話を読み返してくださいませ~(読み返さなくてもたぶん大丈夫な内容ですが・笑)
ちなみに、時系列としては、第三幕の途中、晟藍国への船旅が始まる前、黒曜宮に滞在中のとある日という設定です。(ですので、龍翔の自覚前となります、一応)
そして、最終話ではお読みいただいた方へのちょっとしたお知らせもございます。
よろしければ、おつきあいくださいませ~。
◆ ◆ ◆
口の中でとろりとチョコレートが融けていく。
チョコレートと一緒に、明珠の思考も融けてしまいそうだ。
これは夢ではないだろうかと、本気で考える。
尊敬する主人の膝の上にのせられ、しっかと抱き寄せられながら、今まで口にしたこともない甘いお菓子を手ずから食べさせられるだなんて……。
もしかして、夢の中に迷い込んでしまったのだろうか。
頭がふわふわして、胸がどきどきして、思考が定まらない。
「あの、龍翔様……」
これは夢ですかと問おうと、秀麗な面輪を見上げると、甘やかな笑みが返ってきた。
「どうした? 次はどれを食べたい? それとも、そろそろわたしに食べさせてくれる気になったか?」
龍翔の言葉に、ああそうだと思い出す。龍翔はまだ、明珠の手から強引に取ったひとかけらのチョコしか口にしていないのだ。
「お前が手ずから食べさせてくれなければ食べぬ」と、謎のわがままを言い出して。
このチョコレートの山はすべて、明珠ではなく龍翔に贈られたものだというのに。
明珠だけがおいしい思いをしていては、申し訳なさすぎる。
「で、では……。龍翔様は、どのちょこれーとをお食べになりたいですか……?」
龍翔に「あーん」とするなんて、恥ずかしいことこの上ない。
が、龍翔に贈られたチョコなのに、当の本人が食べられないなんて、誰がどう考えても間違っている。
おずおずと問いかけた明珠に、龍翔が驚いたように目を
かと思うと、すぐに秀麗な面輪が甘やかな笑みに彩られた。
「そうだな……。では、そこの花の形を模したチョコレートをもらえるか?」
「これですか?」
仕切りの中にひとつひとつ収められた、宝石みたいにつやつやしているチョコレートの中から、花の形をしたひとつを指先でつまむ。
桃の花だろうか。繊細な花弁のひとひらまで美しくかたどられたチョコは、見ているだけでうっとりするほどで、龍翔が選ばなければ、明珠では絶対に食べる気にならないだろう。こんな綺麗なものを食べるなんて、もったいなさすぎる。
「本当に、綺麗なちょこれーとですねぇ」
ほう、と感嘆の吐息を洩らすと、
「ん? お前が食べたかったか?」
と龍翔が首を傾げた。うなじで一つに束ねた長い黒髪がさらりと揺れる。
「食べたいのなら、お前が食べるとよい。わたしは先ほどお前がくれたもので十分なのでな。別に強いて食べたいとは……」
「だめですっ、いけませんっ! こんなおいしいちょこれーとなのに、龍翔様が食べられないなんて……っ! 龍翔様が召し上がらないのでしたら、私ももう、いただきませんっ!」
きっ、と黒曜石の瞳を見上げて告げると、龍翔がふは、と苦笑した。
「そうか。それは困るな」
「はいっ、ですから……」
そっと龍翔の口元に花の形のチョコレートを近づけると、大きな手に手首を掴まれた。熱を持った手のひらに、ぱくりと心臓が跳ねる。
「では、ありがたく味わおう。……手折ることのできぬ花の代わりに」
吐息にまぎれるほど低い声で呟いた龍翔が、かり、と真珠のような歯をチョコレートに立てる。
ちょうど半分のところでチョコレートを
「確かに、これは美味だな。これには桃の果汁が入っているらしい。ほのかに、桃の香りがする」
「そうなんですか! それはおいしそうですねっ」
「うむ。お前も食べるとよい」
言うが早いが、明珠の手から残り半分のチョコレートをつまみあげた龍翔が、明珠の口にチョコを押し込んでしまう。
「むぐっ!?」
龍翔が言っていた通り、チョコレートの濃厚な甘さに混じって、かすかに桃の爽やかな甘みを感じる。
「どうだ?」
「お、おいしいですっ! おいしいです、けど……っ」
龍翔が口にしたチョコの残り半分を食べたのだと思うと、動悸が速くなって仕方がない。
おかしい。実家にいた頃は、順雪と一つの食べ物を分けあったことなんて、数えきれないくらいあるというのに。
身分の高い龍翔が相手だというのが、緊張の原因に違いない。
「つ、次はどれを食べられますか……?」
何だろう。妙に心臓がばくばくする。座っているだけなのに、やけに息が上がっている。
ぽぅ、と熱に浮かされたように龍翔を見上げると、明珠の異変に気づいたのか、龍翔が秀麗な面輪をしかめた。
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