第305話 ■「初任務7」

「ユーイチ殿。お待たせ……なんじゃこりゃっ!」


 魔物の群れの駆除がどうやら終わったらしくここに駆け付けたラインは、目の前の光景に絶叫を上げる。まったく、ラインはどこの出身なんだか。


 皆が来るまでの十分ほどの間に魔物から放たれた光弾は計六発。


 直撃しそうなのはエアシールドで屈折させて避け。回避できそうなのは回避に徹するを繰り返していた。

 その回避した光弾は計四発。その着弾点には爆撃でも受けたかのように深さ五十センチはあるだろう大きな窪みが出来ている。

 この威力を生身で受けたら即あの世行きだろう。

 

 ラインの絶叫はその光弾の破壊力によってなぎ倒された何本もの大木を見たからだろう。


 この十分ほどの攻防の中で魔物の行動パターンはある程度見えてきていた。

 攻撃の中で一番の脅威はやはり光弾だ。だが戦闘を行いながらなので正確ではないが攻撃スパンは百秒ほどと態勢を整えるには十分の余裕がある。

 さらに発射する前にあの瘤から一際大きなうめき声が上がり、その人面のような瘤の口から発射される光弾も直線状だから事前警戒しやすく回避も不可能ではないからこその四つのクレーターである。


 その巨体を使っての突撃もあれば脅威度は増すのだろうが、今もなお少しずつ崩壊を続けている四本の足で突進時のその自重を支え切るのは不可能。せいぜいが巨体のわりに小回りが利くその場での方向転換のみ。


 もちろん、ラインやビーチャは近接戦闘タイプにはその方向転換自体が脅威ではあるから注意は必要だ。


「敵は将級クラス! 額にある瘤から放たれる光弾は防御は難しいけど直線的だから回避優先! それ以外はあの巨体自体に注意!」


 僕は矢継ぎ早に敵の特徴と攻撃方法を伝える。将級クラスという言葉に三人だけではなくユスティからも緊張が伝わってくる。

 そうか、軍務歴があるユスティでも実際に将級クラスと対峙するのは初めてだ。

 僕が対峙した二例ともにアインツだけが追従していた。


「三人とも通常態勢で迎撃! 瘤の正面に立たないことを最優先!」

「っ!? 了解っ!」


 それでも三人より先に事態を把握したユスティは、すぐさま三人に対して鋭い指示を出す。

 その鋭さに三人ともに冷静さを取り戻す。


 そのユスティの指示にラインとビーチャは、すぐさま瘤の的を絞らせないように左右に大きく迂回しながら魔物へと駆け出す。


「そう簡単にやらせませんよっ!」


 二方に分かれた標的の片方を相手取ろうとラインへと方向転換をしようとする魔物にアルフレッドは間髪入れずに矢を二射する。

 それは正確に瘤の右目部分に突き刺さり赤紫色の体液が飛び散る。


「アルフレッド! ユズカ! 瘤の口を重点的に狙って!」

「了解!」


 僕の指示に二人は攻撃目標を瘤の口へと変える。二人から放たれる正確無比な矢は次々と突き刺さり体液が飛び散るが、魔物の回復力ゆえか傷口はすぐさま塞がり矢はぽろぽろと地面へと落ちていく。

 それでも二人の攻撃は近接戦闘を行うラインとビーチャの援護として十分。二人の獲物で出来た傷口から崩壊が拍車をかけていく。


 魔物から苦し紛れに光弾が放たれるが常に射線に入らないように動き続ける四人を捉えることが出来ない。


 それから四十分後。崩壊するべき肉体を失い、骨のみとなった骸が横たわるのであった――


 ――――


「これが……将級の強さ……ですか」


 再度動く可能性を考慮して未だに魔物から目線を切ることなくラインが呟くように言う。

 その言葉に他の三人も同じ感想を抱いていると思われる表情をする。


「正直に言えば、光弾自体は将級だけれど総合的な強さについては下級魔物内で最強ってところだろうね。

 存在自体が不安定だったのかどうかは不明だけど自壊していたし、攻撃自体も単調だったしね」


 そう返す僕の言葉に三人ともに絶句したような表情をする。

 三人にとっては今までの下級魔物を遥かに超える緊張感を伴う戦闘だったんだろうけれど、実際に僕が戦ったアストロフォンやボルディアスはこんなものではなかった。

 今回の魔物はあくまでも下級魔物最強と言われるケイブリオよりも一回り強い程度というレベルだろう。


 将来的にトップチームとして成長してもらう中心人物候補の三人が、将級の実力について誤った戦評を持たれるわけにはいかない。

 いずれ訪れる人類滅亡の危機を考えると場合によっては、将級どころか王級、災害級といった魔物と遭遇する可能性だってあるのだから、誤った判断をさせるわけにはいかない。


 僕やリスティたちの見立てでは、三人は今は将級と何とか戦えるくらいの力量だけれど、いずれは王級や災害級とも戦えるほどの才能を持っている。

 ギフト持ちではないのにこれほどの才能ある人材を発掘できたことは天恵だったと言わざるを得ない。

 三人を見出したアリシャとリリィには本当に感謝感謝だ。


 勿論、そこに達するまでは相応の努力が必要だし、僕たちも三人の手足となる優秀な人材を供給していく必要もあるけどね。

 クイやマリーがスカウトしてきた子たちの中にも優秀な子が多いからそこにも期待している。 


「それにしても、ユーイチ殿は将級についてお詳しいですね」

「…………あーうん、そうそう、エルスティア様から昔戦ったことのある二匹の将級魔物について何度も話を聞いているからさ!

 聞きすぎて自分が体験したことと錯覚しちゃったよ。アハハハハハ!」

「ふむふむ、なるほど。そういうことにしておきますか」


 アルフレッドからの冷静な突込みにドギマギしながらも答える。

 こらこらアルフレッドさん。僕に意味深な微笑みを向けるのはやめてもらえますかね?


「まぁとりあえずさ。これで一応完了って事でいいんだよね」

「う、うん。そうだね。とりあえず何日か様子を見てから完了報告かな」


 その空気を換えようとするユスティの言葉にことさら大げさに僕は答える。


「ま、なんにせよ。この度の経験は大いに有意義でしたなぁ」

「えぇ、そうですね」

「……眠い」


 それに三人もそれぞれの感想――ビーチャは微妙だけど――を述べる。

 こうして冒険者としての最初の任務は、将級魔物の共同討伐という大成果を上げるのであった。


 ――後日。ギルドマスターであるヴァンダム・ヒューイは、今回の大成果と報奨金の額の多さをバルクス・ルーティント領全土に大々的に発表する。

 これにより、以降の冒険者希望者は爆発的に増加することになり、レスガイアさん事件――嫌な事件だったね――により今後の応募が減るのではないか? という懸念は将来的な笑い話となるのであった。


 ――――


 初代リーダーで『必中』と呼ばれるアルフレッド・ロックス・ビルマ―

 『鉄壁』ライン・アンカスター

 『神速』ビーチャ・ハーマード

 そして黎明期に彼らを支えた『爆炎』ユーイチ・トウドーと『神槍』ユズカ・トウドーの二人を含めた五人が、今日でも最強・最大規模と名高い冒険者ファミリア『五芒星ペントレイン』の創始者である。


 彼らは最初の任務から大成果を上げ、その後も数々の成果を上げた。

 そして創設から約十七年後の王国歴三百三十二年。災害級魔物のファミリア単独討伐という騎士団以外で初の偉業を達成する。


 彼らの強さの秘密は、詳細は不明だが創始者メンバーの一人であるユーイチ・トウドーとエルスティア・バルクス・シュタリアが懇意にしていたことにより、人材面で大きな支援を受けることが出来たこともさることながら、一人一人の能力の高さに目を見張る。


 殊に『爆炎』として知られるユーイチ・トウドーは、魔法に関しては『新生魔法の開祖』とも呼ばれるエルスティア・バルクス・シュタリアに比肩するとも目された。


 彼と妻であるユズカが表舞台に出た期間は僅か十年ほど。しかも度々姿を消すなど謎多き人物で、当時病床にあったとされるエルスティア・バルクス・シュタリアと同一人物だったのでは? と誰もが知る『ギスターブ王生前説』と同じような荒唐無稽な説が出たりとセンセーショナルな人物であるが、紛れもなく冒険者という地位を確立した重要な人物の一人であった。


 『冒険者ギルドの成立と歴史』 著:オットー・ハイマン

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