第301話 ■「初任務4」

「思ったより数が少し多いな……それにちょっと違和感のある反応がある」


 翌朝。魔物の巣への攻撃前に索敵魔法のサーチャーを使った僕は呟く。


「違和感……ってのはあの後方にいる二回りくらい大きい魔力反応の事?」


 同じくサーチャーを使ったユスティが僕に聞き返してくる。

 幼少期から僕に付き合って訓練していたベルやクリスに比べてれば少ないとはいえ、普通の魔術師とは比べ物にならないほどの魔力量を誇るユスティは、その器用さと理解力の高さで一通りの魔法を使うことができる。

 探索系魔法も得意の中の一つで僕と同規模の範囲をカバーすることが出来るからこそ、後方の魔力反応に気づいたといえる。


「うーん、魔力量からすればさすがに将級とまではいかないけれど、低級魔物の中でも上位クラスってところかな?」

「そっか、(さすがにエル君のせいではなかったか)」


 ちょっと、ユスティさん。小声で言っても聞こえてますよ。


 低級魔物といってもピンキリだ。ちなみにピンの方が上でキリの方が下だ。

 人類が把握している中ではケイブリオという鬼のような魔物が低級魔物内最強と認識されている。

 一方で最弱と呼ばれるのがゴブリンやオークであろう。

 最もそのゴブリンやオークであっても一般人からすれば脅威ではあるけれどね。

 低級魔物の目安と言われる二個分隊(二十名)というのは、ケイブリオに遭遇しても対処できる人数を基準にしているのであってゴブリンであればバルクス騎士であれば一人でも四・五匹であれば十二分に対応は出来る。


「三人で対応できそう?」

「僕の見立て通りであれば大丈夫だとは思う。不安があるとしたら敵が魔法特化型だったら……」

「純粋な戦士タイプの三人だと厳しいかぁ」


 彼らももちろん貴族学校で魔法の勉強はしているだろうけれど魔力量はアリスと大差は無い。

 使えて下級魔法がせいぜいでその使用回数も少ない。


 それでも下級魔物の大半については後れを取ることはないだろう。


 魔物は内に魔力を持つとはいえその大半は自身の生命維持に使用される。

 人が食料からエネルギーを得るのと同様に魔物は食糧、大気中にある僅かな魔力や体内に蓄積された魔力を糧にしているのだ。

 

 なので魔物の強さは魔力量だけで判断することは出来ない――ケイブリオはパワー系だ――が、一つの参考とすることは出来る。


「それよりも気になるのがその高魔力の魔物が動いていないってことなんだよね」


 念には念を入れてと複数回にわたってサーチャーを使用しているけど、低魔力の魔物は頻繁に場所を移動している。

 一方でその高魔力の魔物は一か所から移動をしていない。


「うーん、実は魔物じゃなくて魔力だまり……とか?」

「その可能性もあるね」


 サーチャーは魔力に反応して詠唱者に知覚させる便利な魔法だが万能というわけではない。

 自然界に極稀に大気中の魔力が何らかの要因により一か所に高濃度に存在する魔力だまりと呼ばれるものにも反応することがあるのだ。

 一説には、その魔力だまりが魔物の巣の卵なのでは? ともいわれるが実際のところは不明だ。

 

 巨大な魔力反応を感知したから騎士団を向かわせたら平穏な草原が広がっていた。なんて事も王国各地で発生している。


 一方で中には魔力反応を欺瞞して実際よりも弱く見せてくる個体種もいるので過信するのも危険である。

 結局のところ最終的には目視確認は必須である。


「どうする? 方針を変える?」

「……いや、当初の予定通りでいこう。僕は高魔力の魔物を確認するから三人の直接的なサポートはユスティに任せる」

「了解。わかった」


 僕とユスティは改めて方針を確認して三人と向き合う。


「それじゃ、当初の予定通りに三人がメイン。僕とユズカは三人のサポート」


 僕の言葉に三人は僅かに安堵した空気を出す。

 状況によっては、僕とユスティがメインで。という可能性もあったからだ。


 三人にとっては、初の実戦。自分たちの実力を試してみたいという気持ちが強かっただろうから、サポートに回るというのは出来れば避けたかったのだろう。


「ただし、怪しい反応もあるから状況によっては臨機応変に体制を変更する。

 僕はその怪しい反応を調べるからサポートはユズカがメインになるから過分なサポートは期待しない事」

「おぅ! お任せください」


 僕の言葉にラインは破顔する。今にも魔物に攻撃を仕掛けたくてウズウズしているのだろう。


「無様なところを見せたら方針変えるからね」

「りょ、了解であります」


 浮足立つラインに上手くユスティがくぎを刺す。さすが元騎士副団長。締めるべきタイミングをよくわかっている。


 まぁ、数が多いとはいえ三人の普段の実力であれば十分に対応できるはずだ。クリスやアリスたちもそこを見分けて三人を僕の仲間兼護衛としてつけているはずだし。


「さてと、それじゃいきますかね」


 こうして僕の言葉とともにメンバーでの初めての実戦が開始されるのであった。


 ――――

 

「ぐっ! これが本当の戦闘かっ」

「やはり訓練とは全く別物!」

「……楽しい……」


 魔物の巣に突入してから一時間が経つ頃には、三人の足元には十数にもなる魔物の死体が転がっていた。

 ユスティの指示のもと、小高い崖が両端にそびえたつ場所まで誘導しながら戦場を移動させてきたため、複数に同時に囲まれる心配はない。


 止めどなく魔物が押し寄せてくるように見えるが、進行方向が絞られたために密度が高くなったからだ。

 初めて向けられる本当の殺意に緊張していた三人も、少しずつ余裕が出来てきたのか実戦の感想を口から漏らす。


 前衛にたつラインとビーチャは鎧を魔物からの返り血で赤黒く染めながら、手に持つ獲物を一振りして付着した血や油を落とす。

 この世界の一般的に使用される武器のいいところは刃の部分を魔力を使用して作り出しているから刃こぼれにめっぽう強いことだ。


「ライン君は武器の交換! ビーチャとアルフ君は援護を!」


 それでも使い続ければ次第に切れ味が落ち最終的には使い物にならなくなる。刃を形成するための魔法陣が連続使用する事で劣化していくからだ。

 それについては、実戦経験が少ない二人では見極めが難しい。だからこそ新しい武器への交換タイミングを魔物討伐の経験豊富なユスティが判断する。


 これまでの指示の確かさへの信頼に三人は素直にユスティに従う。うん、この四人に任せておけば、目の前の魔物程度であれば後れを取る心配はなさそうである。


「それじゃユズカ。ここは任せた僕は……」

「後ろの要注意反応を。よね? うん、任された!」


 ユスティの言葉に頷きながら僕はその場を離れ、後方の高魔力反応へと駆け出すのであった。

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