第300話 ■「初任務3」

「おぉっ! 誠ですか! ユーイチ殿!」

「ライン……顔が近い近い」


 冒険者ギルドからの特別依頼の話を三人にしたら三者三様の反応を示した。

 最も分かりやすいのはラインだろう。話が進むに従い興奮で顔を赤くさせ最後には机を超えて前のめりに僕に尋ねてきた。


 アルフレッドも少し離れた壁の傍に立ち冷静に聞いているように見えて、弓をいつでも使えるように手入れを始めている。


 ビーチャも分かりにくいが、眠たそうな瞼がいつもより数ミリほど上に上がっている。

 ふふん、ビーチャのちょっとした違いが分かるようになってきた。いずれはビーチャマスターも夢ではない。


 三人ともに今回の依頼はやる気満々のようだ。


「三人ともテンション上がるのはいいけど、三人にとっては初めての実戦だからね。ちゃんと準備をするように」


 そんな三人を窘めるようにユスティは注意する。

 腕が立つとはいえ三人にとっては実戦経験は無いであろう。学生時代に野外活動はあるが、その場で実際に魔物と遭遇することは少ない。


 アストロフォンと戦う羽目になった僕たちの方が稀有な存在なのだ。しかもその経験があるから魔物対策は厳しくもなっているだろう。

 なんせ下手すれば、貴族家の子息の多くを失う大事件になる可能性もあったのだから。


「現状把握している情報では魔物の数は十数匹。状況によっては作戦変更するけれど僕とユズカは後方支援。

 三人に実戦経験を積んでもらうことを主目的とするからね」


 僕からの方針説明に三人とも――ビーチャは分かりにくいけど――に目を輝かせる。


「ユーイチ君がいるからっても、流石に今回は波乱はないでしょ」


 こらこら、そこのユズカさん。小声で嫌なフラグを立てるんじゃないの。

 まったく、人のことを魔物ホイホイみたいに……。ただちょっと今までアストロフォンとボルディアスっていう将級魔物と遭遇しただけじゃないか。


「それじゃ、明日の朝五時に出発予定だからそれまでに準備をちゃんと済ませておくように」


 僕の言葉を元に皆は頷き、準備を始めるのであった。


 ――――


「……うん。目撃情報があったのはこのあたりかな?」

「確かに町までの距離を考えるとこのまま放置できないわね」


 翌日の朝、五時に出発した僕たちは馬で半日ほど東に来た場所で野営予定地についていた。

 平民出のラインとビーチャも貴族学校で乗馬についてもちゃんと学習していたようで最初こそラインの乗った馬が暴れたが、その後は順調に移動することが出来た。

 特に貴族でのアルフレッドに関しては、線が細いとはいえ、その整った顔を合わさって一枚の絵画のような気品を漂わせていた。

 事前情報では魔物の数は十数匹。


 順調にいけば今日明日中に壊滅することはできるだろう。

 だけど依頼内容として数日間様子を見て、魔物の巣が壊滅したという確証を得る事とあるために野営を行うことにしていた。

 過去には壊滅したと思った魔物の巣の僅か一匹取り残した魔物のせいで復活して小村に大打撃を与えたことがあったらしい。

 まるで家の中の黒い蠢く虫並みの生命力・繁殖力である。


 馬の脚で半日ほど。それは魔物にとっては町は、目と鼻の先の近さという感覚だ。

 魔物の巣はそのまま放置しておけば徐々に規模が大きくなっていく。

 町を襲うのに十分な数になる前に潰しておくのが得策なのだ。

 

「三人は野営の準備を。僕とユズカは対魔物用の結界の準備をしてくるから」

「了解です」

「わかりました」

「……わかった」


 三人に指示を出して僕とユスティは周辺の探査と結界の準備をするために野営地から離れる。

 結界といってもゲームとかでよくあるバリアみたいな奴ではない。

 

 かつて魔陵の大森林に発生した魔物の巣で実地試験を行った『魔力蓄積器』と『魔力反応迎撃機』の配置だ。

 とはいえ今回は時間も材料も少なく、十分な準備が出来なかったので前回の様に攻撃魔法をドンパチ使うものではない。


 魔物の魔力に反応して僕が持っている魔道具が二秒ほどアラート音を発するいわゆる鳴子みたいなものだ。

 一つ一つの有効範囲も狭いし、継続時間も半日程度とまだ改善の余地はあるけれどパーティーメンバーが野営するくらいの範囲であれば十個も配置すればそれなりにカバーできるし、半日も持てば翌日の早朝までカバーできる。

 毎日魔力補充すれば夜は比較的安心して眠ることが出来る。


 さらに今回の件で有効性が確認できれば、今後野営を行うことになる冒険者たちに便利グッズとして販売するというのも悪くはない。

 魔力不足の人用にチャージポイントを作ってそこで儲けるのもありかもしれない。

 冒険者たちは安心が買える。僕にはお金が入ってくる。まさにウィンウィンだ。


「ねぇ、エル君。今回の作戦はどうするの?」


 そんな金儲けの事を考えているのを知ってかしらでかユスティが話しかけてくる。


「うん、皆にも説明したように今回は三人の実戦経験を積んでもらうって意味でも僕とユスティはバックアップの体制で行くつもりだよ。

 いつまでも僕とユスティが冒険者を続けるわけにもいかないからね」

「本当はずっと冒険者家業がやりたいんじゃない?」

「うーん、とても魅力的な提案だねぇ。ま、それを真剣に考えるのはアルフに家督を譲ってからでも考えるよ」


「まさか十五歳になったらすぐにでもとか考えてないよね?」

「……ま、それは置いておいて」

「置いておくんだ」


「僕としては、僕とユスティの後釜を何れは補充するとして。三人を中心として伝説級の冒険者になってもらいたいんだよ」

「伝説級?」

「ちょっと大げさだけどね。冒険者ギルドの広告塔になってもらってギルドの地位と認知度を向上したいわけさ。

 子供って英雄譚とか冒険譚が大好きってのはどの世界でも同じだろうし」

 

「そんなヒーローに憧れた子供が……ってこと?」

「うん、結局なんでも一緒だけどさ。どれだけ意義のある事でも裾野が広がらなければ先細りしていくだけだからね」

「エル君も色々考えてるんだぁ」


「おいおい、まるでいつも何も考えずに暴走しているみたいな言い方じゃないか」


 そう返すユスティに僕は苦笑いとともに言う。

 それにユスティも苦笑いする。


「ま、とりあえず明日からは三人のフォローをすればいいってことだよね。りょーかーい」

「あーうん。……あれ? 否定のお言葉は?」


 僕の言葉にユスティは答えることもなくスタスタと野営地に向かって歩いていくのだった。

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