第90話 ■「ミスティアの双花2」

「エル様、お取込み中の所、申し訳ありませんがこの方達はいったい?」


 妹達とメル家の荷物を取りあえず伯館に運び込んだ頃、僕はリスティから恐る恐る声を掛けられる。

 同じような顔でアインツやユスティ、メイリアがこちらを見ていた。


「あ、そうか、ごめんごめん、皆は初対面だったか。

 っとその前に、リスティ、バインズ先生を呼んできてくれないかな?」

「はい、分かりました」


 リスティはバインズ先生が恐らくいるだろう執務室の方へ向かう。


 ――三分後


「やけに騒がしいと思ったが何だこりゃ?」


 やって来たバインズ先生は玄関フロアに置かれた大量の荷物をみて驚く。


「あ! バインズだ!」

「ほんとだ! バインズだ!」


 バインズ先生が来たことに気付いたアリシャとリリィが駆け寄っていく。


「って、おいおい、アリシャか?」

「もうバインズ、違うよリリィだよぉ」


 間違えられたリリィは、ほっぺを膨らませる。

 けれどそのまま、すぐ笑顔になる。


「バインズ、ひげがジョリジョリィ」

「ほんとだ、ジョリジョリィ」


 バインズ先生の無精ひげを触りながら二人は笑う。

 それにバインズ先生も苦笑いしているけれど嫌そうな雰囲気ではない。


 この二人がいるだけでやっぱり空気が和らぐね。


「お父様が、家族以外にあんな顔をするなんて初めてみました」


 その様に、リスティは驚きながらも呟く。


「アリィ、リリィ、こっちにおいで」

「「はーい」」


 僕の招集に元気に挨拶してやってくる二人。


「という事で、皆に紹介するね。

 こっちが僕の妹で長女のアリシャです」

「初めまして。アリシャ・バルクス・シュタリアです」


 アリシャはリスティ達にお辞儀する。はい、よくできました。


「そしてこっちが次女のリリィです」

「リリィ・バルクス・シュタリアです。よろしくです」


 リリィもアリシャに負けじと大きな声で挨拶するとお辞儀する。


「双子で分かりにくいかもだけれど、来年入学予定の七歳です。

 さて、アリィ、リリィ皆を紹介するね」

「「うん!」」


 元気に挨拶すると向かって左側に立っていたリスティの前に移動する。


「こちらは、リスティア・アルク・ルード。リスティお姉さんです」

「「おぉ、リスティお姉ちゃん! 髪の毛がとっても素敵!」」


 リスティの赤髪を気に入ったのか視線が釘付けになっている。

 幼少の頃、赤髪であることでからかわれることが多かったらしいリスティも純粋な二人の感想は嬉しかったらしく顔を緩める。


「リスティはバインズ先生の娘さんだよ」

「ってことはアリィのお姉さんだ!」

「リリィのお姉さんだ!」


 そう言って、二人はリスティに抱きつく。


「か、かわいい……エル様が妹好きになるのも理解できます」


 おいおい、妹好きってなんか危ない趣味の人間みたいじゃないか!

 ……ま、可愛いってのは否定しないけどね。


「ですが、お姉ちゃんというのは?」

「二人にとって先生はもう一人のお父さんっていう認識なんだよ。

 だから、お姉ちゃん」

「なるほど……こんなに可愛い妹が二人も……最高です」


 リスティは末娘だから、あまりお姉ちゃんと呼ばれることが無いもんな。

 新鮮な感じなんだろう。


「さてと次はアインツ・ヒリス・ラスティ。アインツお兄ちゃんです」

「「アインツお兄ちゃん、よろしくお願いします」」

「おう、よろしくな。ちっこいの」

「……エルお兄ちゃん、アリィ、このお兄ちゃん嫌い」

「……リリィも嫌い」

「うぇ!なんで!」


 アリシャとリリィはスススとアインツの傍から離れると僕の後ろに隠れる。


「ちっこいの、なんて呼ぶからだよ。アインツ兄」


 隣にいたユスティが小声で突っ込む。うん、さすがユスティ


 二人とも下に弟妹が出来てお姉さんであるという思いが強い。

 確かにまだ言動は幼いけれど、あまりに子ども扱いされることを嫌う。

 そんなお年頃なのだ。


「あーそうか。御免な、お兄ちゃんが悪かったよ。アリシャ、リリィ」

「…………うん。それじゃアリィと仲直りだね」

「リリィも仲直りする」


 うん即仲直り、素直ないい子達だ。(贔屓目強し)


「で、こっちがユスティ・ヒリス・ラスティ。ユスティお姉ちゃんです。

 アインツお兄ちゃんの双子の妹だよ」

「ユスティお姉ちゃんも双子なの?」

「でもアインツお兄ちゃんとそこまで似てないね?」


 アインツとユスティを見比べながら二人は首をかしげる。

 そんな二人の頭をユスティは優しく撫でる。


「ユスティお姉ちゃんとアインツ兄は二卵性双生児っていうんだ。

 分かるかな?」

「リリィ知ってるよ。クイとマリーと同じだ!」

「アリィも知ってるよ!」

「うん、そうだよ。二人とも賢いね」


「「やった! エルお兄ちゃんアリィ(リリィ)賢いって!」」


 ユスティに褒めてもらえたことが嬉しかったのだろう。

 二人は僕に自慢げに報告してくる。

 そんな二人の頭を僕は優しく撫でる。


 ……いやはや、子供を甘やかす親の話はよく聞いていたけれど自分にもその兆候があるな。


 気を付けないと……うん、何時かはちゃんとするよ。

 ……でも今じゃなくていいよね? だって可愛いんだもん。


「それじゃ最後に、彼女がメイリア・ベルクフォードだよ。

 メイリアお姉ちゃんだね。ベルの一番のお友達かな?」

「初めまして、アリシャさん、リリィさん。メイリアと言います」


 メイリアを二人に紹介する。

 メイリアについては、最近は彼女の希望……いや決意か。

 で『アクス』を付けずに呼ぶようにしている。


「ベルお姉ちゃんのお友達って事はアリィ達ともお友達になってくれる?」

「私でよければぜひ。よろしくね。アリシャ様、リリィ様」

「うん、でも『様』は仲良くない感じだから嫌!」


 この中ではメイリアが一番、貴族階級に関しては厳格に守ろうとする。

 アインツ達に比べると歴史的には貴族が長いからそうなるのかもしれない。


「メイリアも二人の事は『ちゃん』付けで呼んであげてくれないかな?」


 僕はメイリアに助け船を出す。


「……わかりました。それじゃよろしくね。アリシャちゃん、リリィちゃん」

「「うん、よろしくね。メイリアお姉ちゃん」」


 こうして、二人と僕の友達との紹介は終わる。

 他にもレッドやブルーとかもいるけれどそちらはゆっくりでいいだろう。


 さてと、アリィとリリィの近況をまず聞いてみないとな。

 その後は、ファンナさんと打ち合わせだ。

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