第91話 ■「ミスティアの双花3」

 妹二人とファンナさん達の荷物を部屋に運ぶのをメイドさんにお願いして食堂にしている部屋に集まる。


 愛用している三人掛けソファーにアリシャとリリィに挟まれるように座る。

 バルクスの様子も聞きたいけれど、後からファンナさんに聞く事にしよう。

 二人も流石に詳しいところは分からないだろうし、まずは自分達の事を話したいだろうからね。


「それで、二人は最近どんな感じで過ごしていたの?」

「五歳くらいからお兄ちゃんの真似をして、魔法のお勉強を始めたの」


 リリィの答えに周りの空気が少し変わる。


「……エル様のご家庭はその位から魔法の勉強を始めるのが普通なのですか?」


 多分、皆が思ったのであろう疑問をリスティは僕に聞いてくる。

 入学して分かったんだけど、教育にお金を掛ける貴族でも魔法については入学するまでは勉強する事は少ない。

 魔法についてどう教えるか? が分からないというのが正解かもしれない。


 なので教育機関である学校入学までは、自分たちが教えることが出来るダンスや馬術を主に教えることになる。


「いや、別に普通じゃないよ。でもリリィ。どうやって勉強したの?」

「お兄ちゃんが残してくれていた教科書? を見てだよ」

「ああ、なるほど」


 それを聞いて思い出す。

 自己流で勉強をしていた僕は、疑問や解決法などを細かくメモとして残し、それを資料としてまとめておいたんだった。

 物心ついてから僕の傍にいたアリシャやリリィもそのメモを書いている僕の姿を覚えていたんだろう。


「でも二人だけで勉強したの?」

「ううん、ママに相談したら。ファンナママがお傍にいてくれたの」

「そうなんだ。妹たちの面倒を見てくれてありがとうね。ファンナさん」


 僕はファンナさんに感謝を伝える。


「いいえ、感謝を言われるほどの事ではありませんので。

 男爵家当主になったので産休明けからメイドとしては働けませんでしたから。

 私自身も楽しい時間でしたし。

 それに、それ以外の時間はルークのお世話を一緒にしてくれましたし」

「そうなんだ。偉いねアリシャ、リリィ」


 そう言って二人の頭を撫でる。それに嬉しそうに目を細める。

 知らない間に二人にも責任感みたいなものが生まれてきているようだ。


「それで、どれくらい魔法が使えるようになったの?」

「うーん、やっぱりお兄ちゃんみたいにはうまく出来ないの。

 アリィ、中級魔法だと十回も使うと頭が少しくらくらしちゃうから……」

「リリィもアリィより一回多く使うとくらくらしちゃう……」


 それに何よりも衝撃を受けたのはリスティを筆頭としたメンバーだった。


「やっぱり……エルの家系は人間離れしすぎだよな……」

「そうだね。アインツ兄。七歳の魔力量からかけ離れすぎだよ……」


 こらこら、ひそひそ話をするのなら、本人に聞こえない音量にしなさい。


 僕だって二人の魔法量が基準を遥かに超えている事が分かるだけの一般常識はあるんだからね。


「そうか、二人ともすごいよ。けど学校に入学したら出来るだけ中級魔法は使用しないようにして欲しいんだ」

「エルお兄ちゃんどうして?」


「お兄ちゃんもバインズ先生と中級魔法は使用しない約束しているんだ。

 魔法は便利だけれど、人を傷つけることもある。

 二人もお友達が傷ついたり痛がったりするのは嫌だよね?」

「うん、お友達が痛がっているのは嫌だ」

「だから、二人も自分やお友達が大変な目に会っていない時は使わないようにして欲しいんだ。お兄ちゃんと約束できる?」

「うん、アリィお兄ちゃんとの約束守るよ」

「リリィもお兄ちゃんと約束するよ」


「……そうか、エルも逆に注意できるようになったのか……大人になったな」


 そこ、バインズ先生、うるさいよ。

 僕という素晴らしい(数々の失敗をした)見本があるからこそ何だからね。


「ただ、お兄ちゃんと練習をするときには問題ないからね」

「「ほんと? お兄ちゃんと練習できるの?」」

「うん、もちろん。二人と一緒に練習するのが楽しみだね」

「「うん、楽しみ!」」


 つくづく思うんだけど、練習とかこつこつやる事が好きな家系なんだろうか?


「それで魔法以外は、なにかお勉強してきたの?」

「剣術については殆どやってないの。かけっことかはしてたんだけどね。

 ママがエルお兄ちゃんの所に行ったらバインズ……バインズ先生に

 教えてもらいなさいって」

「……また、生徒が増えるのか。体がもつのか俺は?」


 ……うん、バインズ先生よろしくお願いしますね。


「それ以外だと、メイドさんたちのお料理作るお手伝いとかしていたの。

 二人でなら簡単な料理は出来るようになったんだよ」

「え、本当に?」


 僕は驚く。

 そもそも貴族が台所に立つことを許すのは母さんくらいだろうな。


「さすがに火を使うような料理は無理ですが、サラダであれば問題なく」


 ファンナさんが、そうフォローを入れてくる。


「なるほど……二人ともお料理するの好き?」

「「うん、面白いから大好き」」


 二人は声を揃えて答える。


「そうか……ファンナさん、二人が料理する際には付き合ってもらえるかな?」

「はい、私でよければ」

「うん、よろしくお願いします」


 ファンナさんがいれば二人については問題ないだろう。


 ……その後も二人の離れている間の事を聞く。

 二人から出てくる話は、昔から変わらない事、変わった事。

 そして二人とクイやマリーの様子も語ってくれる。

 そこに、ファンナさんが補足を入れてくれるので分かりやすい。


 こうして僕がいない間の記憶を少しずつ埋めていく。

 ……でもクイとマリーは一度も顔が見れていないから早く会いたいものだ。

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