第78話 ■「襲撃 レイーネの森8」

 とりあえず僕は、アインツを寝かせた場所から離れる。


 アストロフォンも敵は後一人と認識したらしい。

 僕に対して怒りの咆哮を上げる。

 それは振動となり僕の体を震わせる。


 僕はそれに構っている暇はない。

 アストロフォンの一挙手一投足に注意を払いながら頭をフル回転させる。


 アストロフォンの強者たる理由は、先ずはやはりその強固な外殻、甲羅だ。

 それはひるがえせば、内部はもろいという事。


 実際、内部へも影響があったであろうライトニングバインドアルファは、今までの炎系、水系、風系、地系の魔法よりもダメージを与えている。


 とすれば対応方針としては

 一.強固な外殻を破壊して内部露出させる

 二.内部へも致命的なダメージを与える大出力雷系魔法の使用


 だろうか?


 どちらにしても膨大な魔法量を必要としそうだ。

 はたして、それに耐えれるだけの魔法量が残っているかが分からない。


 その時再度、アストロフォンは咆哮を上げ、僕に尻尾を振り下ろす。

 それが第二ラウンドの始まりを告げる。


 ――――


 魔物達の死体の山、山、山

 火をつけられ焼却処分が始まっていた。


 それは魔物達の襲撃が完全に途絶えたことを意味していた。

 あれ以降も散発的な襲撃はあったがリスティ達は抑えることに成功していた。


 リスティ達側の被害は、生徒と先生の何人かが重傷を負ったが死者ゼロ、

 負傷者も魔法量が回復した先生の治癒魔法にて完治していた。


「騎士団だ! 騎士団が来たぞ!」


 にわかに湧き上がる声に後方へ振り向く。


 遠方に見えるのは騎馬隊が上げる土煙。

 事の大部分は終わっているとはいえ、既に全員が疲労困憊。


 ここで、もし再び魔物の襲撃があればもう対応は無理だろう。

 自分たちを守ってもらえる存在が来たことで一気に安堵感が広がる。


 騎士団の中から一頭、伝令であろう騎士が先んじて近づいてくる。


「こちらは第二騎士団レイーネ駐屯地所属、レックス・アルク・ルード。

 責任者はおられるか!」

「レックス兄様!」


 その騎士の名乗りにリスティは声を上げる。


 自分の兄が救援に来てくれた。

 それに今までの非現実的な出来事から現実の世界に戻れた心地であった。


「リスティ! 無事だったか!」

「はい私は。ですがエル様が!」


 その名にレックスの顔色が変わる。

 伯爵公子の身に何かあった。

 それは王国にとっても重大な問題になるからだ。


 そこに報告を受けたインカ先生がやってくる。


「私がこの場の責任者、インカ・ローグンドだ」

「インカ……もしやインカ元教導官ですか?」

「あぁ、そうだ。とりあえず現状を簡潔に報告する。

 魔物の襲撃は一旦小康状態に入った。予断は許さんがな。

 此処にいる教師、生徒は負傷者はいるものの治療が終わり問題ない。

 だが、魔物の襲撃を押さえるために先行した二名の生徒。

 それとは他に先ほど二名の生徒が行方不明と連絡が入った。


 先行している二名の生徒は、

 エルスティア・バルクス・シュタリア伯爵公子

 アインツ・ヒリス・ラスティ男爵公子


 行方不明の二名の生徒は、

 ラズリア・ルーティント・エスト伯爵公子

 パソナ・ヒアルス・ファーナ男爵公子」


 その報告にレックスは更に驚く。

 エルだけではなく行方不明者にもう一人伯爵公子が含まれていたからだ。

 この場合、男爵公子は残念ながら優先度的には低くなる。

 まずは伯爵公子の捜索、救出に全力を注ぐ必要があるからだ。


「了解した。

 本隊に報告するが、捜索については騎士団が対応する事になるだろう。

 あなた達には、一旦状況の詳細整理をお願いします。では!」


 そう言うとレックスは馬首を翻し本隊へと戻っていく。


 リスティ達にとってまだ、戦いは終わってはいなかった。

 エルとアインツの帰還。それまでは……


 ――――


 第二ラウンド開始から十分ほどお互いに決め手がない状態が続いていた。


 アストロフォンの攻撃は初期動作が大きいためタイミングが分かりやすい。

 ただその巨体分大きく避ける必要があるから体力的に厳しくなる。

 なので僕は、アインツが咄嗟に実施したエアウィンドを使って自身の推進力を得るというのを流用し体力消耗を押さえている。


 僕は外殻に一穴を開けようと一部に集中してウォーターアローをぶつける。

 多少ヒビが入ったがそれでもまだ光明が見えない。


 再度のウォーターアローを詠唱した僕は、少し目眩を覚える。


(まずいな。魔力量が厳しくなってきた。)


 今の援軍がいない状態の僕にとっては魔力切れは即、死亡を意味する。

 ここで何がしかの打開策をとる必要がある。


 その時、僕の視線の端に光る何かを見つける。

 それは二対の剣、アインツが使用していた双剣である。


(一か八か、だぁっ!)


 僕はその双剣を拾い上げるとエアウィンドを推進力にしてアストロフォンに向かって投擲とうてきする。


 ウォーターアローを何度も受け脆くなりつつあった外殻に一本目が当たる。

 それは大きく弾かれるが、外殻にわずかな、けれど確実な亀裂を入れる。


 そして二本目はその亀裂を掻き分け深々とアストロフォンに突き刺さる。

 そこから吹き出す血は、確かなダメージを与えたことを僕に知らせる。


「これで! 打ち止めだっ! ライトニング・ボルグ雷の槍!」


 残りの魔力を全て乗せた雷の槍、それは深々と剣が刺さったところに寸分なく当たる。

 それは、アストロフォンの外殻に守られた弱点とも呼べる柔肉にダメージを与える。

 そして、神経を伝って内臓や脳に深刻な、致死性のダメージを与えていく。


『ギィヤァァァァァァァァァァァァァ』


 アストロフォンの断末魔が響き渡るが、魔力枯渇で気を失いつつあった僕の耳にはもう聞こえてはいなかった。


 ――そして、僕の意識はブラックアウトした――

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