第41話 ■「新たなる友達」

 明けて翌日。


 この伯館での初めての朝食をベルと一緒に食べ終わりお茶を飲んでいる。

 ベルもようやくメイドの頃の癖が薄れて、僕の向かいの席で一緒にお茶を飲んでいる。


 ……まぁ、お茶を淹れたのはベルだけれど。


 父さん達も、ほぼバルクス領にいるから伯館に来たことが無かったせいで、うっすらと残った記憶で説明を受けていたけれど。


 実際に来てみると広い。というか無駄にでかい。

 僕たちの世話をするだけであれば三人で十分だけれど、伯館の維持を考えた場合、ローテーションを考えてメイドさんが六名ほど最低でも必要と言う判断になった。

 庭師や調理人についてもいずれは必要だね。

(当面はベルやメイドトリオで問題ない)


 ただ、メイドはどこかの敵対勢力の内通者という事も考えられるので、身辺調査を含めて、かなり時間を要するらしい。

 それまでは、みんなで頑張るしかない。


 手伝うよと言ったけれどメイドトリオとベルに頑なに拒否されてしまった。

 やっぱり主が働くというのはNGらしい。貴族の肩書はめんどくさい。


 そんな風に考えているとフレカさんがやってきた。

 メイドトリオの中でもリーダー的な存在で、僕への取り次ぎをしてくれる担当でもある。


「エル様、バインズ様がいらっしゃいました」

「バインズ先生、もう来たんだね。

 フレカさん案内をよろしくお願いします」

「はい、かしこまりました」


 綺麗にお辞儀をして出ていくフレカさん。


 それから数分後……


「エル、遅くなってすまんな」


 やってくるバインズ先生……と、先生に隠れるようにやって来た女の子。

 たしか先生の娘さんのリスティアと言ったかな?


「おはようございます。バインズ先生。

 むしろもう少しゆっくり来ると思ってましたので大丈夫ですよ」

「あぁ、なら良かった。今日の作業をする前に少し用事があってな。

 ……ほら、リスティ」


 バインズ先生に押されるように前に出てくるリスティア。

 昨日とは打って変わってなんとなくしおらしい。


「リスティアさん?」

「エルスティア伯爵公子様、本日は謝罪に参りました。

 昨日、我が母親の失態に対して、寛大なる対応をしていただいたにも

 拘らずそれを理解できず不遜な態度をとってしまいました。

 ですので、昨日の態度に対して、お許しいただきたく!」


 リスティアは一気にしゃべるとガバッと頭を下げる。

 彼女なりに謝罪の文言を考えてきたのだろう、拙いながらも誠意が伝わる。


 昨日の態度……たぶん僕を睨んだことだよね。


 両親が、初対面の子供に対して頭を下げる事に嫌だと思う感情は理解できるから自分自身そこまで気にしていなかった事にこうも仰々しく謝られると逆に対応に困る……。


「……えっとぉ、バインズ先生?」


 僕はたまらずバインズ先生に助けを求める。

 バインズ先生も「だろうな」と言った感じの表情をして


「まぁ、初対面で普段のエルを知らなかったから、

 昨日の俺に対する態度がリスティなりに許せなかったんだ。

 子供なりの親への愛情だと思って、許してやってくれないか?」

「はい、もちろん。僕としても衛士がいなければ『かまいませんよ』

 で済む話だったんですから。

 奥さんもリスティアさんもバインズ先生に早く会いたかったという

 気持ちは分かりますので」

「よし! であればこの話は解決だな」

「ええ、解決です」


 僕とバインズ先生はこの雰囲気を変えるために少し大げさに言って笑い合う。

 そしてバインズ先生は、リスティアさんの頭に手を置く。


「と、いう事だ。これでこの話は終わりだ。いいなリスティ」

「はい、エルスティア伯爵公子様がそれでよろしければ」


 と、やっと笑顔を見せる。改めてみると年相応に可愛らしい。

 ……うん、母親似だね。とくに他意はないよ、ホントダヨ。


「ああ、そうだエル、ベル。昨日言い忘れていたんだが、

 リスティも一緒の学校に入学する事になるから仲良くしてやってくれ」


「そうなんですか! それじゃよろしくリスティアさん」

「よろしくお願いしますね。リスティアさん」

「はい、よろしくお願いします。エルスティア伯爵公子、イザベル男爵公女」


 うん、久しぶりにエルスティア伯爵公子なんて呼ばれて、ものすごく違和感がある。

 ベルに至ってはまだ、自分の名前を呼ばれた感覚が薄いっぽい。


「リスティアさん、僕の事はエルと呼んでもらえると」

「ですがエルスティア様は伯爵公子、男爵公女である私がそのように呼ぶことは……」

「リスティ、伯爵公子がそれでいいと言っているんだ。

 むしろ固辞する方が失礼になるぞ」


 すかさず、バインズ先生が助け船を出してくれる。


「そうですよ。知り合いのほとんどがエルと呼んでくれる中で

 エルスティア伯爵公子って呼ばれるとものすごくムズ痒いです」

「……わかりました。それではエル様と呼ばせて頂きます。

 私の事もリスティと呼んでもらえると」

「うん、よろしく。リスティ」


「リスティアさん、私の事もベルとだけ呼んでいただけると……

 実は、男爵家になってから日が浅いのでまだ慣れないので」

「そうなんですか。分かりました、ベルさん。

 私の事もリスティとだけ呼んでくれますか」

「はい、よろしくお願いします。リスティさん」


「うんうん、ベルもだけれど、いつかは僕を呼び捨てにしてくれると嬉しいですね」

「ええっ! 私もですか! 

 ……はい、いずれ……努力します……」


 ベルに急に振ったため、あわてる姿が面白い。

 確かに二人とは身分に差があるのかもしれないけれどクリスのように

 僕を呼び捨てに出来るくらいの関係にいずれはなりたいな。


 こうして僕とベルはリスティと出会う。

 この出会いが幸多きことを期待しながら……四月、入学の日を迎えることになる。

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