キダチベゴニアのせい
~ 三月六日(水) ~
2=219 1=81 ~
キダチベゴニアの花言葉
釣り合いが良い
スタイリング大会には。
おばさんのモデルとして参加することに決めたこいつは
軽い色に染めたゆるふわロング髪をハーフアップにして。
キダチベゴニアなど活けて、大人っぽくきめていますけど。
「教授、子供っぽいのです」
「ロード君! 大人の色気むんむんなあたしの、どこが子供っぽいというのだね!?」
「ミートソースのせいで、口の周りがタコのはっちゃんです」
俺の指摘に。
ウェットティッシュでごしごしと拭いた教授ですが。
ソースが口の周り全体に広がって。
マンガの泥棒みたいになってしまいました。
そんなお昼ご飯のテーブルに。
本日はゲストがいらっしゃいます。
「スタイリッシュコンテスト? なにらしくねえこと言ってんだお前?」
「どんな耳してるのです。ヘアスタイリングのコンテストですよ」
「どっちにしろ秋山らしくないわよ。コンテストなんて、なんの風の吹き回し?」
この口の悪いコンビは。
六本木君と渡さんなのです。
上品に食べる渡さんに対して。
豪快にすすりながら食べている六本木君ですが。
どうしてそんな食べ方をして。
ソースで顔が汚れないのか。
これがイケメン七不思議のひとつなのでしょうかね。
「テスト前だってのに変なことやり始めたな、お前」
「偶然、時期が重なっただけなのです。でも、勉強も手は抜きませんよ?」
現に、昨日はあの後。
遅くまで勉強しましたし。
人間、一つ事に頑張ると。
自然と他のことも一生懸命になることができるようなのです。
「穂咲も、こんな凝った料理作ってないで。ちょっとは勉強なさいよ」
「凝ってないの」
「だってこれ、手作りでしょ?」
まあ、そうなのですが。
でも今日は、十分手抜きなのです。
教授は返事の代わりに。
タッパーを取り出します。
それを見て、なるほどと頷く六本木君と渡さんでしたが。
わざわざ説明した教授の言葉を聞いて、眉根を寄せるのです。
「ボトルキープ分なの」
「……昨日の残りってことよね?」
「相変わらずおかしなことを言い出す奴だなお前は」
「そんなパスタやさんがあったら大変なのです」
冷凍庫が、名前の入ったタッパーだらけ。
ミートソースの残りをキープしたい人なんか、世にどれだけいるのでしょう。
……そう思った時。
目に入って来たのですが。
六本木君のお皿。
随分とソースが余っていますね?
「六本木君、キープするおつもりですか?」
「いや。すっげーバランスよく食ってるんだが」
「え?」
それのどこがバランスいいとおっしゃる。
などと突っ込もうと思ったその瞬間。
六本木君のお皿に。
お隣りから、大量のパスタが投入されたのです。
「……な?」
「ほんとなのです」
渡さんは、麺にソースをからめて食べるというより。
ソースだけ食べた後。
麺をちょっぴり口にされているよう。
二人でミートソーススパゲッティーを食べる場合。
それがお決まりの形なのですね。
「なんて釣り合いの良い」
「まあな」
そう言えば、先日のカレーの時に。
教授から似たような攻撃を受けましたっけ。
でも、教授は日によってムラがありますので。
パスタが追加でよそわれる事もあれば。
逆に、略奪されることもあるので。
基本的にどうしようもないのです。
さて、今日はどんな塩梅でしょう。
気になって、教授のお皿を覗いてみれば。
俺と同じように。
適度な配分で食べていらっしゃるご様子。
ちょっとほっとしました。
「……そういや、スタイリング大会って、誰の髪をいじるんだ?」
「穂咲に決まってるじゃない」
「いいえ。教授はおばさん……、教授のお母さんのモデルで参加するのですよ」
「穂咲のお母さんって、有名なスタイリストさんだったんでしょ?」
「はい。でも、俺は真剣に勝つ気で出ますよ?」
「ん? じゃあお前のモデルは? ……まさか、俺に頼む気か!?」
「ですから真剣なんですって。そういう面白枠で参加する気は無いので、お相手を探さないといけないのですが……」
そう言いながら、辺りを見渡すと。
お弁当を食べ終えた宇佐美さんと目が合いました。
穂咲より髪質は細目ですが。
長くて、そして艶やか。
それに、小顔の美人さんという点も有利ですよね。
でも、俺が口を開くより先に。
宇佐美さんは、冷たい視線と共に機先を制します。
「お願いだ、何て言わないでくれよ? この寒いのに丸刈りにしてこなきゃならなくなる」
「そこまでイヤ?」
そんな宇佐美さんの向かいでけたけたと笑う日向さんはショートヘアだし。
渡さんも、勉強仕様とのことで短めのミドルにしたばかり。
「……この長さでいいなら私が協力するけど?」
「いえ、そんなことできませんよ。六本木君に八つ裂きにされてしまうのです」
「しねえよ? でも、この長さじゃアレンジなんかできねえだろ」
「ゴメン。予めわかってたら切らなかったんだけど」
「いえ、謝ることなんて無いのです。それより六本木君は、俺が渡さんの髪をアレンジするの、気にしないのですか?」
「別に? 髪だし。なあ?」
「うん。……それでやきもち焼かれても」
なんと。
そんなとこまで釣り合っているなんて。
「じゃあ例えばね? お休みの日に道久君と二人で買い物行くのはいいの?」
どうやら教授も同じことを考えていたようで。
俺の聞きたかったことを、上手い形で質問したのですが。
「いやよ。隼人に悪い」
「そんなの許さん。俺も一緒なら構わねえが」
「なるほど。お二人は驚くほど価値観が一緒なのですね」
「つり合い取れてるの」
そうかなあ、そうかしらと。
お互いを見つめるお二人さんですが。
「ほんとに。先ほどから見事に釣り合っているのです」
「さっきからって……、いや、ミートソースの話を引き合いに出されても」
「あなた達だってバランスよく食べてるじゃない」
まあそうなのですが。
でも、俺たちはそれぞれが釣り合い良く食べているだけな訳で。
君たちとは何か違います。
しかも。
「あ、忘れてたの。……ロード君! こいつを忘れていたのだよ!」
「いや、いちいち変身せんでも。……って、こいつは?」
「目玉焼きパスタ!」
いや、それは分かるのですけど。
「これを食えとおっしゃる?」
「どうぞ召し上がれなのだよロード君!」
――バランス。
確かに、麺と具の配分は悪くないのですが。
そうではなく。
単に。
「……多すぎです」
二人前じゃないですか。
俺たちはどうあっても。
釣り合いが悪いのです。
そう思いながら。
ハーブソルトがかかった白身を麺にからめて。
しぶしぶ口へ放り込みました。
「……栄養のバランスも悪いの」
「どの口が言いますか」
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