スノードロップのせい
~ 二月二十六日(火)
3=259 2=51 ~
スノードロップの贈り物言葉
あなたの死を望みます
すっかり将来を見据えモードになった俺が。
美容師の専門学校へ進学される先輩を尋ねて、お話を聞いていると。
彼女のお友達さんからも。
いろいろと教わることが出来ました。
どうやら、お花の専門学校というものもあるようで。
でも、ただの花屋になるならそういうのはいらないらしいのですが。
「今更ですが、慌ててしまいます。学校に入るのがゴールだと思っていました」
「変なことを言う道久君なの。何になるか、じゃないの。何を成すかが重要に決まってるの」
何を偉そうに。
「君もちょっとは考えなさいな」
「考えてるの」
「ウソです。二つことしか考えていないじゃないですか」
「二つって何なの?」
「午前中は、お昼ご飯の事」
「……午後は?」
「明日のお昼ご飯の事」
「そんなこと言う道久君のお昼ご飯は、フグ刺しに決定なの」
フグもびっくりするほどまあるく膨れてしまいましたが。
「殺す気ですか」
「体がしびれるほどの美味に、天にも昇るような心地になると良いの」
「本気で殺す気でしたか」
そんな。
免許無しで、フグをさばこうとしているこいつは
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、ツインテールにして。
揺れる尻尾に、白いベルの様なスノードロップをたくさん活けているのですが。
「はいなの」
そのうちひと房を手渡されましたけど。
「やっぱり殺す気じゃないですか」
これ、人にあげちゃいけないお花なのですよ?
「殺すなんて、そんな馬鹿なことしないの」
「ああ、そうでしたよね。君は俺を、生かさず殺さず。搾れるだけ搾り取る気でしたもんね」
何となく始まった口喧嘩のせいで。
気球よりもぷくうと膨れる穂咲でしたが。
宇佐美さんが目の前に来ると。
途端にご機嫌笑顔へ早変わり。
そして、宇佐美さんから。
ボールペンを受け取っているのですが。
「穂咲、こんなものでもいい?」
「もちろんなの。……これ、あの時のなの?」
「ああ、穂咲のペンを台無しにしちまった時のさ。代わりになんかならないけど、お前に買ってあげたヤツ」
「いらないから返したんだっけ。これでいいの?」
「ああ」
そして、大事そうに宇佐美さんの名前を書いた札をつけて。
ガラクタ入れの様なショッパーに突っ込むのですが。
「何を集めているのです?」
思わず質問した俺の声を遮るように。
先生が教室へ入って来たのです。
やれやれ、仕方ない。
この話はあとで聞きましょう。
礼をして、席について。
しっかり予習済みの教科書を開いて準備万端。
……ねえ。
準備万端なのですから。
やめなさい。
「道久君、なにかよこすの」
言うに事欠いて。
なんのつもりです?
「……そんな強盗には屈しません」
「じゃあ、華麗に盗むの」
「君、怪盗じゃなくて探偵だったのでは?」
前まで探偵ごっこに興じていたくせに。
いつから意趣返し?
「そう、あたしの名前は、アルセーヌ・ポワロ」
「結局どっちなのです?」
そう聞いたところで。
先生が、出席を取り終えたようなので。
穂咲の返事を待たずに。
おしゃべり終了なのです。
………………ええい。
終了だと言っているでしょうに。
「なにかをよこすの」
知りません。
「じゃないと、イタズラするの」
ハロウィンですか?
「わるいごいねがー」
そしてどうしてなまはげ?
君が悪い子一等賞なのです。
穂咲はかまってかまってと袖を引きますが。
相手にしてなんかいられません。
でも、俺が無視を決め込んでいたら。
ここのところ、授業中あまりかまってあげなかったので。
とうとう、臨界突破。
穂咲、大爆発なのです。
「もう! 道久君は、これをよこすの!」
「どわっ!? なにをするのです教授!」
そんな叫び声で表した通り。
Yシャツを剥ぎ取られてしまったのですが。
「凍え死にさせる気?」
この子、どうやら。
今日は、俺の命を
「さすがに寒くて無理なのです! 待ちなさい!」
「こら貴様ら! 廊下に立っ……、こらーっ! 廊下を走るな!」
背後から叫び声が聞こえますが。
穂咲同様、構ってなんかいられません。
そしてまるっと二時間ほど。
Tシャツ一枚で校舎内を走り回っていたせいで。
一年生から。
裸の大将先輩と呼ばれるようになりました。
「……あれは、ランニングシャツなの」
「言いたいことはそれだけか、アルセーヌ・ポワロ」
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