第4話 資金作り
「発明」というのがこのあと大きく運命を変えていく要因となった。とんでもないズルというか道義的には泥棒と一緒なのだが、俺に出来るのはこれしかないと考えた。
最初に考えたのは洗濯機に付けるゴミ取りネットだった。いかにも中学生のアイデアらしくて「発明クラブ」に持っていって相談するのに手頃だと思ったのだ。企業に行かずになぜ「発明クラブ」に持ち込んだのかというと、大人を間に介在させることが必要だと思ったからだ。ただ「発明」しただけでは何にも出来ない。それを金に変えるには商品化が必要だ。
俺の「知識」ではこのゴミ取りネットを作った人は、一億円を稼いだことになっていた。発明品は作るだけではだめなのだ。特許化などの法的な処置と商品化のための企業へのアプローチが必要だ。一中学生の手に負えるものではない。そういった手順に慣れた大人が必要なのだ。そのためには「発明クラブ」というのは最適な存在だった。
漫画週刊誌で情報を得た後で急ぎアイディアメモを作る。自作可能なものは見本品を実作する。発明品とその商品化がどのように進むものなのかを俺は知らなかった。だから出来るだけの準備をしたうえで大阪にあるクラブへ向かった。
結果は上々だった。
クラブを主宰するのは初老の男性だった。勤めを定年退職し、趣味の物作りが講じてクラブを作ったらしいのだが、会社員時代に商品開発を経験していた。それも日常生活品が主だったようで、持ち込んだ見本が見事にハマったようだった。
「すごいな君!これならすぐにでも紹介出来るわ」
どこまで信用して良いのか不安なところもあったのだが、どうせダメ元だと開き直ってアイディアメモと見本品を全部その男に預けて帰った。すぐにでも企業に持ち込みたいと言うのだが、平日に中学生が同行できるわけもない。さてどうなることか。来週結果を聞きに来ます、といってその日は神戸に帰った。
翌々日に電報が来た。ちなみにまだ我が家には電話がなかったのだ。我が家だけではなく、この頃は電話の普及率はまだ低かった。田舎では「有線電話」という一回線を共同で復数の子機で使うというシステムがあったが、さすがに都市ではそれはなかった。代わりによく有ったのが「呼び出し」という仕組みだった。一軒電話があるとその近所の家がその番号を自分ちの番号(呼)として公表して使わせてもらうものだ。あとで考えるとすごいシステムだな。まあ緊急時にはこれで連絡がきたりしたものだ。俺はこれには抵抗があって連絡先にはしなかったのだ。
その電報だが「シキュウレンラクコウ」とだけ印字してあった。
「なんじゃこれは」と思った。大人のやることではない。あまり優秀なサラリーマンではなかったのであろう、と思いながら、しかたがないので公衆電話で彼に連絡をしてみた。
「君いけたよ!すぐにでもものにしたい言うて先さんが言うてはるんや」かなり興奮した様子で彼は企業との会合のことを伝えてくれた。先方の反応はかなり良かったようだ。次の会合では具体的な事をやりとりしたいとのことで、出来るだけ早い日取りで行きたいとのこと。ならばと翌日放課後に大阪へ行くことにした。思いの外反応が良かったようだった。
ここから話はトントン拍子に進んだ。
俺が心配していたことのひとつ、こちらを子供と見てなめられるということについてだが、そのあたりは意外とあっさりとクリア出来ていた。クラブを介したのも良かったようだし、メモや見本品を用意したのも正解だった。どうも、中学生の俺単独ではなく、大人の影があって下手に対応するとまずいと判断されたようだ。メモの出来がどう見ても子供の手ではなかったと思われたし、見本品の完成度も同じくとのこと。まあそりゃそうだ。結構真剣に作ったのだ、俺としても。もともと子供の頃から手先は器用なほうだったから、僕の手を使ってとはいえまあまあうまく作れたと思っていた。
それにプレゼンテーション能力はサラリーマンの基本だからね。
思えば俺のサラリーマン生活は、手書きからパソコンへの過渡期でもあったので、書類作りでは色々苦労や工夫を経験していたのだ。若手の頃は手書きで読みやすく、中堅になった頃はワープロで切り貼りしたりして、ソフトが充実してきたらグラフや図形を取り入れて、と面倒でもあり面白くもあったサラリーマン時代を思い出しながらその経験をつぎ込んだのだ。うまくいってくれなくては困るよ。
もう一つの懸案事項である法的な事柄だが、これは先方企業と共同で行うことでクリアすることにした。クラブの会長にも相談してのことだが、やはり慣れないと様々な申請はハードルが高かったのだ。最初で失敗してもつまらない。段取りさえ理解できるまではスピード重視で進めたかった。これで終わりではない、これからが重要だと思った。儲けは半減でも良いから経験を積みたかったのだ。金銭的な契約は結構詰めたつもりだけれども。
これで俺は一時金と、売上の歩合との二つの資金作りに成功した。あとは積み重ねだ。
目的は我が家の経済的安定化と私の教育資金作りだ。
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