第3話 中学生
中学に入学して半月たった。そろそろ自分なりのペースを作りたい。やることリストはたくさんある。最優先はお金の問題だ。学校と家を往復して行くだけなら、贅沢を望まないなら今まで通りで良いのだ。だが目的のはっきりしてきた今はもう違うのだ。出来るだけ早く、一度大阪へ行きたい。妻の実家を訪ね彼女に会いたい。もちろん直接ではなくてながめるだけだが。
中期的には家の家計をなんとかしたい。とりあえずの目標を医大進学へときめたのでそのための準備をしたい。自分の問題は学力をつけること。家の問題は学資をつくることだ。安っぽい県営住宅にすんでいるぐらいだから我が家はけっして裕福ではなかったのだ。そして残念ながら傾向としてこの流れはまだまだ続いていくだろう。
このままではまずい。
短期的にも中長期的にも資金問題は重要課題だ。
とりあえずアルバイトと思ったが中学一年生では新聞配達ぐらいしかなかった。 やってみるしかない。
で、わかったことだが。
安い!
朝刊を自分の足で走って配るのだが、まず部数がこなせない。最初は数十部が精一杯だった。一ヶ月働いても数千円にしかならない。だが当初の活動資金を作るにはこれしかなかった。なにしろ妻の実家は大阪の天王寺だ。今行ってみるには神戸から大阪へ国鉄か私鉄を利用して行くことになる。それだけで今もらっている小遣いは消える。
大阪梅田から天王寺へは国鉄環状線か地下鉄で行ける。神戸からは一時間以上かかるだろうがそれ自体は大したことではない。とにかく一度行ってみたい、そのためには金がいる、だから朝早く起きて新聞配達を頑張った。
結果として五月には天王寺へ遠征することが出来た。この当時の彼女を見ることも出来ず大いに落胆する事になったのだがそれは後述するとして、この新聞配達というアルバイトをしたことは大きなプラス作用をもたらした。
まず第一に早寝早起きの習慣化だ。そして朝の運動だ。数十部とはいえこれを走って配るのはかなりの運動量になった。必然的に朝食もしっかりと食べるので結果的に体力体格はかなり向上した。もともと身体的に私はあまり大きい方ではなかったのだが、一年後の身体測定の時にはクラスのトップに並ぶようになっていく要因のひとつになった。
また新聞配達のメンバーには同じ中学の上級生もいた、その人はサッカー部に所属していて、それなりに校内では一目置かれていた先輩だった。当時の中学校で実力派の先輩と顔見知りであるというのは随分と有利な事になるのだ。おかげで後々学校でつまらないトラブルを避けることが出来た。自分がそれなりに目立つ存在になって行くと、いわゆる目をつけられる事になってしまうからね。当時の下町の中学校では大事なことだった。
金額的には不十分ではあるが、短期的にはこれで行くしかなかった。だから中長期的な方も含めてなんとかしたい、どうしたものか俺が考えていると、僕が見ている雑誌の記事に気がついた。通常は眼の動きは僕に任せながら俺は思考だけをおこなって僕の動きに干渉しないようにする。基本的にはこれでやっていたのだが、つい割り込んでページをめくる手をとめてしまった。
「ちょっとまって」
「なんだよ、こんな埋め記事は後でゆっくり見ればいいやん。はよW3見ようよ」
「たしかにワンダースリーは読みたい、そろそろ最終回も近いしな」
「えーそうなん、どうなるんかバラさんとってよ」
「大丈夫や、俺も筋忘れとるし」
「子供発明教室」というタイトルの見開き2ページの記事だった。
内容といえば、発明というにはあまりに低レベルのものばかりだった。教室というより単に発明品の紹介をしているだけのものだった。目についたのは最後に書いてあったこれだ。
「関西発明クラブ」
そして名称だけではなく、連絡先として住所と電話番号と代表者名が書いてあった。これは使えるんじゃないか。
結果的にこれが大正解だった。ありがとう少年サンデー。
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