第10話『今日から新学年の新学期』
クリーチャー瑠衣・10
『今日から新学年の新学期』
Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの
目覚めたらミューがいなかった。いつも寝ていた菓子箱のベッドの中はもぬけの殻。
小さな乃木坂学院の制服がたたんで置いてあった。1/6の制服を手に取ると、その下にはアナ雪キャラがプリントされた小さなブラとパンツも畳まれて置いてあった。
――悪いけど、人形は借りていく。なんたって体が動かないんで人形の体を使うしかないの。制服は置いておきます。人形が返せたら、また着せてやって。瑠衣がクリーチャーで、かなりの力があることは分かったと思う。あとの力は自分で見つけて磨きをかけてね。それから、クリーチャーは瑠衣一人じゃないから。気を付けて――
そんな残留思念が置手紙のように残っていた。
「行ってきまーす!」
今日は希望野高校の新学年の新学期だ。学校はあんまり好きじゃないけど年に一回の改まった空気は好きだ。
ミューが言い残していったクリーチャーは瑠衣の味方ではないだろう。そして生まれながらのクリーチャーではなく、急きょ送られてきたものに違いない。
通学途中は気を付けた。
見知らぬ誰がクリーチャーか分からないからだ。クリーチャーたちは瑠衣が覚醒したことを知って、瑠衣を抹殺しにきた敵だ。ミューの思念で、そこまでは分かる。だが敵の実態や、姿かたちは分からない。ミューにそこまで言い残す余裕が無かったのか、まだ理解する能力が瑠衣に無いかのどちらかだ。
意外にも学校までは無事だった。
学校に入って違和感があった。具体的には分からないが、何かがいつもと違う。
新しいクラスの一覧が下足室の前に貼りだしてあった。
「瑠衣、同じクラスだぞ!」
野球部の杉本が上履きに履き替え、体育館に向かっていた。あいつが瑠衣に気があることは知っていた。
――同じクラスになったんだ、少しは仲良くしてやるか――
そう思ったとき、杉本が笑顔でボールを投げてきた。まるで青春ドラマの始まりだ。
笑顔でボールを受け止めようとした瞬間、ボールは鋭利な刃物に変わっていた。瑠衣の右の手の平の上半分が切れて吹っ飛んだ。
あいつ、クリーチャー!?
気づいた時には、左腕の付け根から先が無くなっていた。前のクラスから一緒だったスーちゃんが、ちょっとした悪戯をしたような笑顔で、血の滴る瑠衣の左腕を持って立っている。
――ここにいちゃ、殺される!――
そう思った瑠衣は、無意識に英語の準備室にテレポした。両手の欠損したところは直っていた。
――あたしも大したもんだ――
そう思った時、高坂先生が机の向こうから顔を出した。
「あら、もう始業式始まるわよ」
高坂先生は、岸本との傷も癒えたのだろうか明るい笑顔で、出口の方を指さした。反射で出口の方を見ると、音もなく、後ろの背の高さ以上もある本棚が倒れてきて、瑠衣は下敷きになってしまった。
胸が痛い。肋骨が何本か折れたみたいだ。
「さあ、あなたを生贄にして新学年が始まるのよ……」
高坂先生は、準備室の隅に立てかけてあった槍を手に取り、本棚の下敷きになった、瑠衣を串刺しにしようとした。
「高坂先生までクリーチャー!?」
思った瞬間、鼻先まで伸びてきた槍は消え、高坂先生の体がねじ切れた。血しぶきと内蔵をまき散らしながら、高坂先生の上半身が目の前に落ちてきた。
学校にはバリアーが張られているようで、外に出ることはできなかった。
三十分ほどで、学校中のクリーチャーを片付けた。最初の十分で瑠衣は二度死にかけたが、そのたびに回復し、あとの二十分は一方的にクリーチャーを殺していき、学校で生きているのは瑠衣一人になってしまった。
どうやら、瑠衣の本格的な戦いが始まったようだった……。
クリーチャー瑠衣 第一期 完
クリーチャー瑠衣 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クリーチャー瑠衣の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます